第7章 咲弥という守護者(2)
過去で起きていることをプロジェクトの上層部、政府の担当者に報告をして「しばらくは現代で審神者に静養をさせつつ様子を見たい」と束穂は申し出をした。
審神者は、自分がこれ以上刀を付喪神として呼べないことへの後ろめたさから「この状況でもなんとかなると政府に思わせたい」と願い、束穂のような申し出は決してしなかった。
審神者の気持ちはわからなくもなかったが、なんといっても正直なところ束穂も限界であった。
相手が外敵であれば、結界の外に集めた「それら」を他の空間に封印する、などといった荒い手段が出来る。だが、今のところ害意は感じない。だから、手荒なことはして欲しくないと審神者には言われている。
とはいえ、朝から晩まで結界を破ろうと試み続けられるのは、なかなか精神的に休まらない。
束穂の申し出は誰のためでもなく、自分自身のためであったのだが……。
「はあ……」
残念ながら、その申し出は却下された。
現時点で結界は破られていないのだし、本丸を守るのが自分の役割なのだし、それらと審神者の調子の悪さは何の因果関係もなく静養の必要もないという結論だった。
そんなある日。
いつものように刀らしき魂が結界に群がっている昼の間、突然その気配がぱあっと消えた。
「!?」
庭で花の手入れをしていた束穂は、瞬時に結界の層を増す。
「いつもの」気配とは、まったく違う何かが本丸に迫っていた。
(なんだろう。全然、今までのものとは違う)
どん、どん、と結界に対してそれはぶつかっている。
それまでの刀の魂が散り散りになっていったということは、それらよりも何か力がある、あるいは悪意がある何かに違いない。
眉根を潜めて神経を集中したが、大きな何かの気配がある、としか感じられない。そもそも、束穂の能力は空間に関することに特化しているのであって、そういったことにはからっきしなのだ。
相手がなんであれ、好意的ではないことだけは確かだ。
結界の力を強める束穂。
強めれば強めるほど、どん、どん、とそれを破ろうとする力も大きくなってゆく。
それほどまでにこの本丸に近づきたいのか。
せめて形があれば対処出来るだろうに。
(わたしは見えないけれど)
審神者ならば見えるだろうか。
束穂は慌てて審神者の部屋に向かった。