第6章 咲弥という守護者
刀を呼ぶことが出来なくなってしばらくしてからのこと。
いつも通り過去に遡った本丸で出陣を見送った後、束穂は異変に気づいた。
何かが、本丸に侵入をしようとしている。
その「何か」が何なのかはわからない。
ただ、それが形を持たないものだというのは明白だ。本丸の周囲をぐるりと束穂が様子を伺ってもそれらしきものは何もなく気配だけだ。
審神者の食事を作っている手をとめて、束穂は本丸の門に向かった。
何の音もしない。けれど、本丸に入ろうとする気配は相変わらず感じる。
本丸は、束穂が作り出している1mほどの結界の層で包まれている。そこに何かがぶつかり続けているのだ。
(少し層を厚くしよう)
三振が戻ってきても、彼らはその層をするりと何事もないように抜けることが出来る。ただ、特に石切丸は姿ないものへの気配が敏感なのか、束穂が作り出している層を感じているようだから、厚くすればきっと「何かあったのかい」と声をかけてくるに違いない。
(三方がお戻りの頃にはいなくなっていると良いのだけれど)
外敵なのかそうではないのか、束穂には判断が出来ない。
いざとなればその「何か」がいる空間だけを一時的に封じることは出来るが、それをやればそれはそれで「どうもいつもと様子が違う」と石切丸が言い出しそうだ。
(本当は、わたしの力なぞ必要ない、そんな状況が一番望ましいのだけれど)
だが、審神者の力が弱くなっている今、時代を遡るのに本丸を移すだけでも束穂がいなければ困難になってきている。
必要とされることはいくらか嬉しいけれど、こんな形で必要とされるのは悲しいことだ。
「咲弥さん」
「…!…」
門から戻る途中、審神者に声をかけられる。今日はあまり調子がよくなくて部屋で横になっていると思っていたのだが……
「大丈夫ですか、お体は」
「……何か門に?」
「いえ、誰も」
「では何故……」
「何かの気配がして。でも、とくに害意があるようでもなかったので、念のため少し結界を強めました」
「そう……ありがとう」
礼を言う審神者の表情は芳しくなかった。朝、あまり調子が良くない、と言っていた時よりも容体が悪そうに見える。
それが、自分の力のせいだと、この時の束穂はまだ気づかなかったのだ。