第5章 秘密の欠片
三日後、宣言通りに審神者は快方し、翌日からまた出陣を行うとの通達が下された。
束穂はあの夜以降はまたいつもと変わらぬ様子で仕事をしていたが、出陣がない分、暇を持て余した刀達、特に短刀から「理由は聞いたけど、でもたまには顔をみたいなー」なんて何度か言われたりもした。それへは、居心地の悪さを多少感じつつ、ひたすらに「申し訳ありません」と流すのが精いっぱいだ。
「失礼いたします」
束穂は審神者の部屋に昼食の粥を持っていく。
奥の寝室ではなく、手前のいつもの部屋で、けれど横にごろりとなっていた審神者はゆっくり体を起こした。
「食べられますか?」
「ああ」
いつもほど食は進まないようだが、だいぶ元気になったように見える。
「倒れる前に、鍛刀を行っていたと加州さんがおっしゃっているのですが」
「ああ、そうだ……迎えを待ちくたびれているだろう。見に行かないと……加州を呼んでくれるかい」
鍛刀部屋にきっと新しい刀が来ている。
彼らが言う鍛刀とは、付喪神として迎え入れられるほどの魂を呼び寄せる、よりどころとなる仮初の姿としても刀を作ることだ。
それを作った後、審神者の力で刀の霊を呼び寄せる。彼の力で呼ばれた魂が仮初の宿としてのその刀に篭もるには時間がかかり、それを終えれば審神者の力で付喪神としての姿で本丸に現れることが出来る。
束穂は言われた通り加州を呼んできて、食事後の審神者と共に鍛刀部屋へと赴いた。
いつもは分をわきまえてそんなところに共に行くことはないのだが、なんにせよ審神者が病み上がりで初めて力を使う場であるから立ち会って欲しいと言われたのだ。
とはいっても、束穂の力は守護者としての力しかないため、何か不測の事態があったからといって何か出来るとは思えないのだが……。
「新しいお仲間かぁ……って、なんか、なんか」
「加州さん?」
「いつもと、この部屋ちょっぴり雰囲気違うんだけど」
「え?」
束穂は部屋の中にまでは入らず、開けた戸の外に立っている。それへ、眉を潜めて囁く加州。
「……さあ、姿を見せておくれ」
二人を背後にとどめたままで、仮初の刀に向かって審神者は言葉をかけ、何か儀式めいた動きを見せた。
鍛刀で刀の魂が姿を見せる瞬間を初めて見る束穂は、息を潜めて成り行きを見守っていた。