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【刀剣乱舞】守護者の恋

第5章 秘密の欠片


「おお、新しい太刀だね」
まだ人の姿を見せない刀に対して審神者ははっきりと断言する。そんなことがわかるのか、と思いつつ、束穂は胸元で両手を組み合わせた。

――なんか、いつもとこの部屋、ちょっぴり雰囲気違う――

先ほどの加州の言葉が引っかかる。
そして、来る刀は新しい太刀だと言う。

嫌だ。ここにいてはいけないような気がする。
だからといってここから退いても何も変わらないのだけれど……。

束穂は必死に「まっすぐ立たなければ」と自分の心と体を奮い立たせようとした。すると
「!」
次の瞬間、審神者の前にあった刀が光る……と思えばその形は発光の収束と共に綺麗さっぱり消え失せ、代わりに彼らの前に「新しい刀」が姿を現す。
「よく来てくれた。君の名前は?」
ゆっくりと、誰に対してもそうであるように、審神者は穏やかに問いかけた。
カタン、と戸が動く音に加州は後ろを振り返る。
「……束穂?」
「あ、い、え」

駄目。いけない。
ちゃんと立っていないと。
ちゃんと、何もないように、初めて出会う人物として普通に……普通に……。

「大きいけれど、小狐丸。いや、冗談ではなく」

彼らの目の前に現れたのは、頭部に耳、尻から立派な尾を生やした、まるで獣人とでも呼べそうな変わった風貌の刀、小狐丸だ。
変わった風貌と言えば聞こえが悪いけれど、その姿は神々しさすら感じ、人でもなく刀でもない、何かに選ばれた不思議な存在を形づくっているようにも見える。

どくん、どくん、と束穂の鼓動は高鳴り、変な汗が体から噴き出る。
いつかこの日が来るかもしれないと、あれほど覚悟をして。そして、無事にその日をやり過ごすためにこうやって頭巾をして、不自由な格好で生活を己に強いて来たのに、どうしたことか。

(わたしには、何の覚悟も足りなかった……)

愕然として、ただひたすらその場で息を潜めることしか出来なくなった束穂の前で会話は続く。
「こぎつねまる。来てくれてありがとう。君の力を借りたい」
「ふむ……あなたがこの本丸のぬしさまということか。であれば、なんなりとこの小狐丸の力をお使いいただければ」
「……どうにも、話が、早いな」
審神者の声が曇った。
加州も言葉を発せずに二人の様子を見ているだけだったが、既に「今まで鍛刀でやってきたどの刀とも違う」と察したようだ。
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