第4章 近づく距離(2)
束穂からの話が終わり障子が閉められ、足音が遠のくと刀剣達はみな「はあー」と誰からともなく小さなため息を付いた。
審神者はどうやら重大な病ということではないらしい、とわかって、安堵の息でもあり、が顔を出していることについて暗黙の「言ってはいけない」空気からの解放によるため息でもあるだろう。
「明日の出陣はないとは思うけど万が一ってこともあるからちゃーんと寝てねー」
と加州が言うと、みな「うーーっす」「はーい」などと若干上の空の返事をする。
短刀達は無邪気に「束穂さんずっと顔を出してればいいのに」とか「可愛かったですよね」と話していたが、最近すっかり逆に短刀の世話役になった一期一振が「さあ、みな寝室に移ろう。話はそこでも出来るから」と声をかける。
それへの「はーい」は先程の加州への返事よりは明るい声だ。話をするな、と言われたわけではないことをみなわかっているからだろう。
今から短刀達が出ていき、その後を追うように脇差達も出ていく。
体つきのせいか、短刀と脇差は打刀や太刀、その他の刀達よりも睡眠時間を多くとるようにと審神者に指示を受けているからだ。
「明日から、また顔を隠すって言ってたよね」
と安定が加州に言う。
「ん、そうね」
「それってさ……」
「女みてえに詮索すんなよな」
同田貫が嫌そうな表情で言えば「失礼だな」と軽く唇を突き出す安定。
「詮索っていうか、心配に近いんじゃないかねえ」
そう言うのは、束穂の訪問で酒呑みを中断していた次郎だ。
「あたしらに見せてもいいけど、これから来る刀、誰が来るかはわかんないけど、誰かには見せたくないんでしょ。顔をさ。そういう意味だ」
「え?どういうことだ?」
間抜けなことを言う御手杵に呆れながら説明をする歌仙。
「だってそういうことだろう?基本、顔を見せない。今日は不測の事態で見せてしまったが、それは良しとしよう。だが、明日からはまた見せない。それは、今ここにいる僕らに見せたくないっていう意味ではないんだよ。きっと」
「うん???」
それでも御手杵はよくわからないようで首をかしげ「あなたらしいですが、困り者ですね」と宗三に厳しい言葉をもらった。
「他の、ここにいない刀を顔を合わせたくないってこと」
そう言いながら次郎は空になったお猪口に酒を注ぐ。