第1章 守護者の日常
「はい、出来上がり」
朝の目覚めは5時。5時半には本丸の台所に入って、まずは米を炊き始める。それが束穂の日課だ。
朝食は7時開始。そのための配膳に、給仕担当がやってくるのは15分前。
朝のおよそ1時間45分で30人分の朝食と昼食のしたごしらえを終えるのは、本当に気分が良い。
(昨日また新し本丸に来た方もいるし、あまり好き嫌いのなさそうなもので2、3日様子を見よう)
今日のメニューは焼き魚、卵焼き、ひじき煮、小松菜と油揚げの味噌汁、そして五穀米。いかにもなメニューだが、むしろそれが良いだろうと思う。
朝の焼き魚は、あまり骨がないものを選ぶ。
人の姿になって間もない刀は、食事に結構手こずることが多い。それを束穂は知っていた。
だが、夜は疲れてすぐ寝たいだろうから食べにくい魚はやめて、疲労回復のためよく肉を出す。いや、魚もからっと油で揚げて南蛮漬けにして酢で疲労をとろうとたまには出すが、人も、もと刀の人も、酢は好き嫌いが分かれるため、どうしても夜は肉料理に偏る。魚の唐揚げや、新鮮な魚が手に入れば刺し身も良いのだが……。
なんにせよ、そんなことで大体魚は朝。骨をうまくとれるように練習するのは昼。そういうことまで気にしながら毎日の献立を組み立てる。
「おはよう、束穂さん。これにこれよそえばいいんだね?」
朝一番に台所にやってきたのは、燭台切、そして少し遅れて山姥切だった。
「おはようございます。よろしくお願いいたします」
広い台所から廊下に出る手前に、膳を運ぶためのスチール台車と大きなテーブルが用意してある。
業務用の炊飯器と寸胴に作った味噌汁、そしてご飯茶碗と味噌汁椀と箸が人数分。畑から採れた旬の野菜の浅漬などと小皿。それらを、給仕担当の刀は手早くよそって行く。彼らが用意をしている間に、主菜と副菜を束穂自身が一皿ずつよそって、台車に積む前に膳に配置をする。膳を台車に移すのは、後からやってきた秋田と安定が行った。