第3章 近づく距離
「長谷部くん、明日の出陣のことだけど」
夕食後、燭台切は長谷部に声をかけて出陣と遠征のメンバーについて相談を持ちかけた。彼らは大体審神者の指示に黙って従うが、時には意見をすることもある。
「そうだな……お伺いを立ててみるか」
「うん。やっぱり初めて行く場所なら遠戦が出来る刀装があると安心だからね」
「珍しいな、主がその辺りを気にしないのは」
「長谷部くんもそう思うかい?」
肩を並べて二人は審神者の部屋に向かった。
夕食を終えたばかりの本丸はまだあちこちで賑やかだったが、審神者の部屋は少し奥まった場所にあるため、廊下を曲がれば喧騒も気にならなくなる……はずだったが、その代わりのものが彼らの耳に飛び込んできた。
「だだ、だ、だ、誰かああああーーー!!」
ガラッと乱暴に障子を開ける音。
見れば、審神者の部屋から加州が相当な剣幕で飛び出して来る姿が。
「どうした!?」
「あっ、あ、二人共……ちょっと、どうしていいか……」
「なんだ、何があったんだい」
加州は眉根を潜めて口早にまくしたてる。
「すっごい苦しそうなんだけど、意識戻らないし、これどーすればいいのか全然わかんない。風邪ってやつ?何?これ、どうすればいい?」
「落ち着け」
「来たらもう倒れてて……」
少し混乱しながら切れ切れに伝えようとする加州の言葉から、どうやら審神者が倒れているということを二人は理解をした。
「失礼いたします」
長谷部は律儀に声をかけて審神者の部屋に入る。と、加州が口走っていたように、そこに荒い息を吐きながら審神者は横たわっていた。長谷部は膝を畳につき、審神者を抱きかかえて何度も声をかけるが返事はない。燭台切もそれを覗き込み、端正な顔立ちが幾分険しくなる。
「医者はどこにいるのかな。わかるかい」
「わかるわけないじゃん、そんなの」
三人は、こういう時に人というものはどういう風に看病されていただろう、と思い巡らす。だが、寝かせる、以外に具体的な対処法は思いつかない。
「体が相当熱い。熱が出ているようだ。俺は束穂を呼んでくる。ひとまずは寝所へ運んで布団に」
「うん。頼んだよ」
「早く。早く行って!」
加州に急き立てられながら、長谷部は足早にその場を去った。