第2章 守護者の秘密
「……はい」
束穂はそれ以上言葉にしなかった。おかげで、こぽこぽと急須から茶を注ぐ音だけが室内に響く。
そっと茶を審神者の前に置けば、すぐに彼はそれに口をつけた。
「あの時は申し訳なかった。守護者という仕事を勧めたのは、テストさえ通ればすぐにわたし付きの守護者にしてもらえると思っていたからでね……まさか、あんな風に最初の実験に付き合わされるとは」
「謝らないでください。それに、この仕事を紹介してくださったことは感謝しています」
「……当時は、まだ本当に過去に遡って、その過去のどこかにいるはずの刀と、この現代で付喪神になった刀が共存することが出来るのかとか、彼らをこんな風に大量に同じ場所に存在させることが大丈夫なのか、すべてが」
「その話は止めましょう」
審神者は束穂をじっと見つめる。その視線から逃げ続け、束穂は「失礼します」と告げて四人分の湯のみを回収した盆を雑に持って出て行った。
乱れる心を抑えながら束穂は台所に続く廊下を歩いていた。
この本丸に、三条の刀は今剣と岩融がいる。けれど、彼女は二人ではない三条の刀を知っていた。
もし、三日月が。もし、石切丸が。もし、小狐丸が。
その三振がもしもこの本丸にいつまでも来ないとしたら。それは、「あの時」に彼らを一度失ったからなのではなかろうか。
あの時の審神者は不思議な人物で、鍛刀でその三振りを呼び、それっきり刀の魂を引き寄せることが出来なくなってしまったけれど。
今剣とこの本丸で出会った時、束穂の心はざわついた。あの本丸では三条の刀ばかりが何故か現れたから、もしかして今剣の後に彼らも……と思ったのだ。
けれど、今のところやってきた三条の者は岩融のみ。
おかげで今剣は嬉しそうだが、それっきりだ。
とはいえ、他にも愛染のように兄弟刀と呼べる者がここにいない刀は多く、一人でいることが悪いとか悲しいとか、そういう考え方はよくないとは思う。けれど、今回の粟田口の大喜び具合を見ればそういったことが気にならないはずもなく、そこから審神者は束穂の過去のことを思い出したに違いない。
(あの三振を付喪神として側に置けたのは、主の短命ゆえの力の強さと、もともと三条の刀と縁があるからだと当人も言っていた……)
そう。短命ゆえに。
審神者の死と共に滅んだ本丸を、彼女は守っていたのだ。
