第2章 守護者の秘密
一通り話を聞いて、束穂はふと小夜左文字との先ほどの会話を思い出し、合点がいったと思う。
そうか、小夜のあの言葉の続きは。
「うん……粟田口じゃないけど……でも、僕だって……」
頑張る、とか、そういうことではなくて。
きっと何か小夜は目当ての「ご褒美」があるのだろう。
彼は束穂が「ご褒美」のことを知っていると思っていたに違いない。だから、粟田口ではない彼もが遠征に行くことことを意外に思ったのかと判断をし、少し言い訳じみたことを口にしそうになった。
(そういう意味で尋ねたわけではないけれど)
だが、小夜に誤解をされたことそのものより、小夜が欲するご褒美が気になる。
と、茶を飲み干してから審神者が一期一振に声をかけた。
「一期」
「はい」
「明日は出陣してもらうから、今日はゆっくりするといい。兄弟達がいなくて寂しくなったら薬研に構ってもらえば良いしな」
「はは、わかりました。いろいろとお気遣いをいただき、恐縮です」
「大体慣れてるとこだって、あんな大勢にまとわりつかれたらたまんないよ」
と加州が言えば、薬研が「おいおい」と軽く小突く。
「そういうわけだから、よろしく。三人は下がって良いよ」
審神者が言う「三人」は束穂を除いた刀達のことのようだった。加州・薬研・一期一振は軽く礼をして退室をした。
「失礼しますね」
そう言ってみなが飲んだ茶器を盆に戻す束穂。それへ、呑気な口調で審神者は世間話のように語りかけた。
「本当に楽しみにしていたんだなあ、粟田口の子達は」
「そのようですね」
「同じ人物に作られたとはいえ、一緒にいたわけでなくとも兄弟分と感じ取れるものなのかな」
「さあ……わたしはみなさんが刀としてどんな主のもとにどれだけの時間いたとか、そういうことを存じませんし、なんとも」
「そうだな……兄弟分ではなくとも共にいた刀とは、それはそれで様々な関係であったように見えるが。彼らの記憶は本当に人間に近くて……それを失っている骨喰も、記憶が無いことをもどかしさや悲しみを感じているようだ。人と変わりがないことは嬉しくもあり悲しくも」
審神者の湯呑茶碗に束穂が手をのばすと、そっと掌でそれを遮り「もう一杯」と声に出さず指先で審神者は意思表示をした。
それは、まだ彼女に話がある、という意味だろう。