第19章 改変の傷(2)
夜の余韻が残ったままの翌朝。
あまりよく眠れなかった束穂はいつもより少し手を抜いた朝食――といってもそれは作っている彼女自身しかわからないのだが――を早めに作って、珍しく軽い二度寝をした。
寝ても覚めても食事を作っても、更にはもう一度寝ても、どうしても昨晩の長谷部都のことが思い出されてしまう。
今日は、石切丸ときちんと面通しをして「初めて会った」人間として振舞うようにと覚悟をしようと思っていたのに、心の準備は何も出来ていない。
だが、みなの朝食後に審神者の部屋に行く約束をしている。
短い二度寝からのそのそと起き上がって身支度を整え、ちょっとだけ気分をあげるため練り香水を耳裏につけた。
柔らかな柚子の香りを吸い込むと、少しだけ気分が晴れる。
「よし」
よくわからない気合を入れて、束穂は離れを出た。
「失礼します」
「ああ、おはよう、束穂」
審神者の部屋に束穂が行くと、審神者、加州、小狐丸、それから薬研と乱が座っていた。ああ、石切丸についてだけではなく、昨晩のことも話すつもりか……と察する束穂。
「茶を淹れながら聞いてくれるかな」
と審神者が言えば、間髪入れずに乱がとんでもないことを言い出した。
「ねえ、束穂、昨日薬研が言っちゃったこと、もう知ってる?長谷部から聞いた?」
「え、あの……?」
「昨日長谷部と話してたでしょ」
がちゃん、と普段絶対に立てない音を響かせ、束穂は急須の注ぎ口を強く湯呑茶碗に打ち付けた。
その音に驚いて束穂を見る一同。
「ちょ、ちょっとどうしたの?僕なんか悪いこと言った?」
「あ、いえ、悪くないです、あの……はい、もう知っています……」
乱の言い草は軽い。あまり多くあれこれと言ってこないということは、彼女が頭巾を脱ぐ前か、もう一度頭巾を被ってから見かけたに違いないのだが、そこまで束穂の頭は回らない。勝手に意識して勝手に過剰に反応した自分を呪うだけだ。
「ちょっと、乱、それさあ、アレじゃないの……」
なんとなく察して嫌そうな声をあげる加州。
「無粋っていうさあ……」
「ええー?そういう勘ぐりの方が無粋じゃない?」
加州と乱の会話に、「どちらのご配慮も今はつらいです」と心の中で呟く束穂。