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【刀剣乱舞】守護者の恋

第19章 改変の傷(2)


再び瞳を閉じると、今見ていた光景は一瞬で消え去り、月明かりに照らされた静かな空間で自分を見る長谷部を思い出す。
あれは、彼にとってとても大切なことだったのだ。
薬研から告げられた、何人かの刀達が黙っていたこと。それは彼の心を揺らし、彼がいつも切り捨てていく「もやもやとしたもの」の輪郭をはっきりと浮き上がらせたに違いない。
思い返せば、長谷部は終始穏やかだった。今まで、ことあるごとにお互いの想いが伝わらないもどかしさをぶつけあってきたが、彼は「伝えようと思って」自分に会いに来てくれて、自分はただそれを聞いていただけだった。それは本当に束穂にとっては「どうしてそんなこと今頃気づくのだ」と思えることだったが、彼にとってはそうではない。
それらのものは、実は彼が一度いらないと捨てて削ぎ落としたものだからだ。
わかっている。何かに執着をするということは、しがらみが出来て、その心を縛るものが増えるということで。きっと、あれもこれも「わからない」と捨てていけば、もっと楽には生きられるのだ。そして、長谷部は捨てることで迷いを消し、誰よりも早く物事を決断し、残したものに対して忠実に振舞う。
そんな彼が、捨ててしまえと粗雑に扱ったものを、もう一度拾い上げてくれたのだ。
そして、それを伝えに来てくれた。
(わざわざ、わたしに、会いに)
筋を通そうと思ってのことなのか何なのか、それについて束穂はよくわからない。
だが、素直にそれは嬉しくて、それから。
すぐに離れなかったあの腕の感触と、そこに人間の男性と同じ身体があるのだと十分すぎるほどに伝わった胸板。
考えないようにと願っても思い出してしまう。それをどうにか思考から追い出そうと、毛布をぐるぐると体に巻き付ける束穂。あの時の感触を消し去るべく、陽を吸ったふんわりとした毛布のやわらかさに集中をしようとした。

――長谷部くんが、何故君が泣いたのかを尋ねたなんて。彼は、きちんとわかろうと思ったんだね――

燭台切の言葉を思い返す。
そうなのだ。すぐに拒絶をして、すぐに捨てようとするのに、心を決めて向かった時の彼はどこまでも真摯で。
それが自分に向けられているのだと思えば心が震え、嬉しくなり。
そんな自分をおこがましいと思いつつ、けれど、許されたいと願いながらゆっくりと意識は閉ざされていった。
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