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【刀剣乱舞】守護者の恋

第18章 改変の傷


「ごめんなさい……あの、助けてくださってありがとうございました」
ようやく、もっと早く言うべきだった言葉が彼女の口から発せられると、即座に長谷部は「いや」と軽く首を振る。
「俺が悪かった。俺はいつも、すぐに我慢が出来なくなって逃げる。だから、お前が止めようとする」
「そうですよ……長谷部さんはほんのもう少し我慢してくださったら、わたしが喜びますのに」
束穂は、どうにかそんな「いつもの自分ならどう答えるか」と必死に答えを探しながら言葉を返す。話し始めた最初の声が少しだけ掠れたことを、長谷部は気付いているだろうか。もし、気付いていても気にしないで欲しい……そんなことを思いつつ。
彼女のその思いの欠片も届いていないのか、長谷部はとんでもない返事を投げてきた。
「ああ、そう思って、さっきはお前が顔をあげるまで、どうにか我慢をした」
「!」
そこじゃない。
我慢して欲しかった場所はそんなところじゃない、と束穂は抗議の声をあげようとして、寸でのところで声を止めた。いや、驚きで喉が締まった。
それは、先程隠れたばかりの月が雲の隙間から姿を覗かせ、僅かな灯りを届けたからだ。不意に目に飛び込んだ長谷部の整った顔立ちに、彼女は言葉を失ったのだ。
ほんの少しだけ。先に言われていなければわからない程度、確かに長谷部の頬は紅潮しているように見える。こんな風に、静かに照れくさそうに口を引き結んでいる彼を見るのは初めてかもしれない。

ああ、こんなこの人を見られるなら、もう一度彼の腕の中に戻っても良い――

ちらりとそう思った瞬間、黙った彼女をうろんげに見る彼の視線に気付いた。
慌てて頭巾を被りなおすと、もう長谷部はそれを止めなかった。

その後、時間が遅いからと長谷部は束穂を離れまで送ると申し出た。
一人で大丈夫だと束穂が言えば「また転ばれたら困る」と真面目な顔で長谷部が言う。
「長谷部さんが逃げなければ転びません」と答えれば、彼は口をへの字に曲げて「次は助けないからな」と笑った。
そんな言葉を交わす間も、束穂はひたすらに「いつも通りに。いつも通りに」と己の平静を保つことに必死だった。たとえ、頭巾を被ることを許されたとしても。
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