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【刀剣乱舞】守護者の恋

第18章 改変の傷


彼女は彼がそうそう気が長くはないと知っていたし、根競べなら負けない、と妙なことを考えて、必死に気を逸らそうとしていた。
だって、そうでもしなければ、こんな恥ずかしい状況を耐えることなぞ出来やしない。
すると、長谷部はそのまま言葉を続けた。
「気にすることはないだろう。人間は、体温があがると赤くなると俺も知っている」
本当にどうしようもない人だ、と罵りたい気持ちが束穂の中で湧き上がる。
そんなことを指摘される恥ずかしさは、過去にどれほど「恥ずかしい」と思ったことよりも衝撃で、早くこの場から逃げたいという気持ちを増長させていく。
が、次の長谷部の言葉は更に束穂を驚かせた。
「人の体となった俺もそうなんだろう。鏡なんぞ見る気はないが、きっと今、俺も同じだ」
「……?」
少しだけ。
本当に少しだけ、いつもより優しく聞こえる長谷部の声音。
言葉が相変わらずどこか足りないせいで、束穂は一瞬理解が出来なかった。同じ。同じとは何が同じなんだろう?と間が開く。開いてから。
「……」
とても、穏やかに、緩やかに。
束穂は、まるで月を見ようと空を仰ぐかのように、言葉もなく顔をあげた。
それと共に、彼女の手を掴んでいた長谷部の手が静かに離れていく。
ゆっくりと静かに同じ時間を消費する二つの行為。彼女は顔をあげ、長谷部は腕を下ろして。時間にしてほんの5秒ほどであっても、それは濃密で心が焦がれるには十分だ。
そして、その僅かな時は、どうやら彼女ではなく長谷部の味方をしたようだ。
「ずるいです、長谷部さんは」
残念そうに「もう……」と束穂は肩を落とす。
「うん?」
「月が雲に隠れてあなたの顔が見えません」
「……はは」
折角決心して、いや、赤くなっているかもしれない長谷部を見たいという好奇心に負けて顔をあげたのに、あの僅かな時間で、さあっと月は雲隠れしてしまった。
それでも、束穂は長谷部を見上げる。見えなくても良い。その方が、こうやって彼を見ていても自分は恥ずかしくない。
ぎゅっと胸元で両手を握りしめる束穂。心臓はまだ跳ね上がっており、体も熱い。
それでも、長谷部との間に出来た空間は、少しだけ彼女の気持ちを落ち着かせる。
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