第18章 改変の傷
「お前は、知っていたんだな。折れた刀が戻ってきても、記憶を失っていると」
それは、咎めるような調子ではなかった。
ただ、彼の中で、どうしてあんなに審神者が、束穂が、強く彼らが折れぬようにと再三口にしてきたのかが腑に落ちたのだろう。
「……はい。でも、あなた方の主は、それは必ずとは言い切れないと。覚えている刀もいるかもしれないし、だからといってそれを確かめたいと、わたしもあなた方の主も思っていません……記憶を失って戻ってくる『可能性も』あるというだけ」
覚えていられるかもしれない、ということを殊更に仄めかしたいとは思わなかったが、それは必要だ。覚えていられないから折れるな、と断言をすることも可能だったし、そうすれば話はとても楽だと知っている。
だが、彼らの主はそうしなかった。あの心優しく、刀達を導こうとしている穏やかな人は、刀達にそれぞれ考えて欲しかったのだと束穂は知っている。覚えていようが覚えてなかろうが、一度誰かを失えば彼が心を痛めると、もっと手前の感情を理解して欲しいと願っている。それは束穂もまた。
長谷部は、どう感じたのだろうか。
それをそのままの質問で投げかけて良いかどうか悩む束穂に、先に長谷部は言葉を発する。
「自分が今の主を忘れたらと思えば、それは、俺も悲しいと思える。骨喰達のように既に忘れてしまったことがある刀の気持ちはわからないが、今の主はとても俺のことも評価をしてくれている。それをすべて一度なくすのならば、なくさないようにとそれに尽力できなければ、確かにそれは不義理だと思った」
そこまで語って、長谷部は唇を引き結ぶ。
とても短い感想だ。けれど、これが彼が伝えようとしているすべて。
ああ、彼からの話がひと段落ついたのだ。束穂はそう感じ、それを理解出来る自分に少し驚いた。