第18章 改変の傷
「最初に折れたのが誰か、なんて詮索は無用だってわかってるよね。折れたやつは、自分が過去にここにいて折れたことを覚えていないし、主がさあ、もしかしたらって慎重に接したから、だーれも本人に伝わってない。今回、石切丸が来た時に主がさっさと束穂に伝えちゃったのは、石切丸が『折れてなかった』はずで、小狐丸が『折れてなくて、覚えていた』からだ」
ふうー、と息を吐き出す加州。
彼はここに初めてきた刀だったが、こんな風にみなの前で、心底の長い深いため息をしたのは初めてと言えた。
「なんで、なんで言っちゃうの、二人とも」
乱は納得がいかない、という顔で薬研と加州に訴えるが、それへは薬研が「いいさ、怒られるのは俺っちだ」と答える。そんなことを聞いているのではない、と乱が更に声をあげれば、加州はそれを無視して肩を竦めながらみなに告げた。
「要するに、よく、わからないんだよね。覚えてるか覚えてないのか、なんて。でも、覚えていなかった時の主の悲しみ様は、俺や薬研や乱は知ってる。だから、俺達は折れちゃあ駄目なんだってこと」
意外だ、と束穂は驚いて目を瞬かせた。
だが、その直後に、薬研の気持ちもわかる、と思える。
きっと彼は、あの夜からずっと。
そう、長谷部が本能寺で「自分が折れようと構わない」と、仲間だけを本丸に返そうとしたあの夜から、いつか告げる時が来る、いや、来るべきだと思っていたのだろう。
それには束穂も同感だった。あの日、長谷部と言葉を交わして、わかってもらえないときっと薬研も思ったに違いない。
「まあ、そんな話をしていたんだが」
長谷部の説明は相当端的で、刀達がどんな表情でどんな思いで言葉を交わしたのか、束穂にはいささか不明瞭に聞こえた。だが、それが彼にとっては精一杯だったし、誇張をして話されるよりは余程良い。彼は彼が伝えられることにとても忠実で、それを不明瞭と思えるのはむしろ長谷部らしいと束穂には思える。
(戦場で起きたことは、とても正確に報告をなさるし、その時は刀の皆さんの様子もよく読み取れていらっしゃるのに)
それを何かの欠落と呼ぶ者もいるだろうが、彼女にはそうとは思えなかった。言えばきっと彼は苛立つだろうが、なんて、なんて彼は人間らしいんだろうとふと思う。
そんな束穂の心を知らず、長谷部は言葉を続けた。