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【刀剣乱舞】守護者の恋

第18章 改変の傷


時は遡って夕食前のこと。
もしかしたら、近くにいればそのうち石切丸の意識が覚醒するのではないか。
そんなことを思い、小狐丸は本丸の説明その他を行う審神者・加州と共に石切丸の傍に居続けた。
だが、一通りの説明を終え、他の刀剣達とあいさつを交わした後でも、まったく石切丸は「初めての石切丸」のまま。
顕現してすぐにあれこれ詰め込まれ、石切丸も疲れただろうと審神者が彼を解放したのは、彼がこの本丸に現れて一刻と少し経過した頃だった。
「……ふうむ」
それでは自分も休憩、と、みなが寛いでいる畳部屋にすとんと小狐丸が座れば、そこにいた刀達がみな心配そうな視線を向ける。
「本当に覚えてないの?以前の本丸のことを」
眉を潜めながら安定が聞けば、素直に小狐丸は頷く。
「それは残念な話だな」
「まことに」
御手杵の言葉にも素直に頷く小狐丸。それへ、長谷部は問いかけた。
「悲しいか」
「……悲しい、うむ。自分を忘れられるのは構わないのですが」
と言って目を細め
「共に囲んだ、以前のぬしさまのことを忘れてしまったと思えば、石切丸自身が可哀想だと思えてしまう。きっと、石切丸にとって大切な思い出になっただろうに。そんな同情は不要と言われればそれまでですが……そう。悲しくないわけではない。そして、多分これは消えないだろう気持ち」
「……束穂は、まだ会っていないのかな?」
と尋ねたのは青江だ。
「うむ。鍛刀場に近侍と共に来たものの、ぬしさまから事を聞いて、会うことをためらった様子。その気もちもわかるというもの」
刀達はそれぞれ顔を見合わせた。
すると、その場にいた骨喰が
「……忘れたといっても、切れ切れに抜けているのではなく、顕現時のことまるごとなんだろう。だったら、石切丸は自身が何かを忘れている、ということすら気付けないんだろうな」
とぽつりと言う。
みなは彼の言葉の意味をすぐには理解が出来ず「ん?」と眉根を寄せたが、誰よりも早く鯰尾がそれには頷いた。
「多分。だって、石切丸にとっては、前の本丸の前後に、何かそれと繋がる流れがあるわけじゃない。ごっそりとその部分が消えちゃえば、その穴すら見えないだろう」
「ある意味、幸せでもあり、ある意味、不幸せでもある」
「……骨喰は?」
「不幸せとは思わないが、記憶がないことを幸せとも思いはしない」
骨喰は自嘲の表情する見せず、淡々と告げた。
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