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【刀剣乱舞】守護者の恋

第18章 改変の傷


「束穂!束穂!!」
どたどた、と賑やかな音が廊下に響く。
厨房でかぼちゃ羊羹を作っていた束穂のもとに、えらい剣幕で加州がやってきた。
「束穂、あの、あの」
息を切らせるほど本丸で加州が走るのは珍しい。余程の緊急事態ではないか、と束穂は険しい表情を向ける。
「どうしました?」
「きた!」
「え?」
「石切丸が、き、きた!」
「えっ……」
石切丸は、束穂が以前いた本丸で共に過ごした刀だ。
小狐丸がこちらに現れた時は「会いたくない」と思っていた束穂だったが、今はもう「折角ならばお会いしたい」と前向きになっている。だからといって、こんなに早く……と驚きを隠せない。
「えっと、あの、え」
「だから、ほら、一緒に行こう!」
「わ、わたしまだ南瓜をつぶしているところで」
「後でいいよ、後で!」
温かいうちにつぶさないと、とかなんとか言っている束穂の手を加州は握り、ぐいぐいとひっぱっていく。
馬の世話から戻ってきた陸奥守が廊下でちょうどすれ違い、いささか呑気に「おおー?何しちゅう?」と言うのにも返事すらせず、廊下をと走る二人。
「連れてきたよー!」
鍛刀部屋について声をかける加州。
中に入ろうとすると、審神者が逆に部屋から出てきて二人を止める。
「ど、どうしたの」
「待ってくれ、二人共」
「え?何何?」
審神者の表情は険しい。
鍛刀で呼び寄せることが難しい大太刀が来たというのに、どうしてそんな表情をしているのだろうか。
ぴしゃん、と後ろ手なのに強い力で障子を閉める審神者。
「束穂、落ち着いて聞いて欲しい」
「はい」
「石切丸には、君との……以前の本丸の記憶がない」
「え……」
「小狐丸とは、違う」
「待ってください……それでは、まるで……」
折れてしまった刀が、もう一度呼ばれたかのような。
石切丸は三日月ほどの損傷はないまま消えたはずだ。
以前の本丸からここに来るまでに、どこかで顕現して、戦って、折れてしまったのだろうか?
いや、それよりも。
それより、審神者の話が本当だったら、自分はどんな顔で。
「ま、待ってください、ちょっと、あの」
束穂は審神者のことすら見られず、目線を彷徨わせる。
「うん。落ち着いてからでいい」
「とりあえず……南瓜……つぶして来ます」
「え」
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