第17章 長谷部の選択2
配膳から片付けまでは彼らに任せて、束穂は自分の朝食をとる前に久しぶりに庭の手入れに出た。
さすがに庭師までの技術はないけれど、以前の審神者が昔ながらの庭が好きということで、付け焼刃ではあったがあれこれ勉強はした。
枝を切ってもあまり痛まない木で、枝が伸びすぎているものがいくつもある。
高枝鋏を持ち出して上を見上げれば、良い天気だ。
(……そういえば、長谷部さんは、あれから一言も話してないな)
二人きりになる機会がなかっただけではない。だが、長谷部は自分からは束穂に声をかけてこない。
避けるようなあからさまなことはしてこないが、拒絶の意思をは感じる。
(とても悲しいけれど、仕方がない。これだけの人数いれば、どうにも出来ない相手もいるのだろう)
それは、束穂の本心ではない。そう思い込まなければ、悲しくてどうしようもないのだ。
きっと長谷部は、束穂を切り落としたのだろう。彼の心の中で、少しばかりひっかかっていたけれど、やはり、それ以上考える必要はない、と、分かり合う必要なぞないと。
切り落とした枝がぱらぱらと落ちてきて、足元に重なっていく。
ああ、こんな風に、長谷部は色んなことを削ぎ落として。
(けれど、揺るがない幹があるように、それだけはブレないんだろう。本当は細やかに気が付いて、こうやって細い枝を伸ばしているのに)
その幹を守るために、自分との対話を彼は止めたのだ。
足元でがさがさと折り重なる細い枝。束穂はうつむき、それをいつまでも瞬きもせず見つめていた。