第17章 長谷部の選択2
突然の痛みに立っていられず、小狐丸の体にぶつかるように膝から崩れる束穂。ぶわっと額に脂汗が浮き出る。
「結界とやらを攻撃するのではなく、それを作っている当人まで探り当てるとは、なかなかの洞察力を持つものよ……誰が斬れるかな……えーーっと、霊刀と呼ばれるからといっても、形なきものをなんでもかんでも斬れるわけでもなし……ひとまず他の者を起こして……束穂?」
束穂は小狐丸に支えられながらどうにか立ち、彼の着物を強く握った。
結界で本丸を覆っただけでは、攻撃してくる者を追い払えない。以前の本丸でそれを痛いほど知った彼女は、今の審神者に助けられた後からこの本丸に来るまで、午前中はさまざまな分野の座学や生活に関する実践、午後はひたすら自分の能力に関する訓練に日々明け暮れた。
それらは、あの頃結界を張って外敵を遮断することしか出来ず、脅かすものを自分の力で撃退できなかった後悔からのものだ。
自分の力で倒せることが出来れば。
(でも、実践したことはない)
怖い。
きっと、撃退される方も、こんな風な痛みを感じるのだろう。
そう思えば、更に怖い。
だが、刀達に同行して、彼らが傷つく様を間近で見れば、自分がなんとも覚悟が足りなかったのだとわかるし、あのように審神者が自分の気持ちを理解してくれていると知れば、怯えている場合ではないのだ。
「はーっ……」
息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。
痛みをほんの少しだけやり過ごしながら、束穂は集中をした。
結界にぶつかっている小さな何か二つ。そしてぶつからないで様子を見ているようだけれど、きっと、結界と紐づいている束穂を攻撃している何か。
霊体であっても、それは間違いなく存在して空間に「いる」のだ。
だから、それらがいる空間を囲んで。それから、その空間を歪める。
審神者への助けはいつも「結界を張る」「空間を安定させる」ことだが、その後者をあえて逆に。
うまくいくのかは、わからない。こんなものを生物――と言ってよいのか――相手に実践したことはない。けれど、出来るはずなのだ。
あんなに。あんなに、毎日、毎日、毎日……。
「お願い……ここから離れて……」
小さなうめき声が唇から漏れる。小狐丸がもう一度「束穂?」と顔を覗き込もうと思ったその瞬間、彼女は、生物に対して行使したことがない力を解いた。
