第16章 長谷部の選択
長谷部の姿が完全に視界から消えてから、束穂は庭で座り込んだ。
踏み入ってはいけなかったのだろうか。こんな風にぎくしゃくするならば、誰の心も気にせず、表面だけうまく付き合えば良かったのだろうか。自分はお節介すぎるのだろうか。
(……どうしよう。もう、これで終わりだったら)
漠然とした不安は、やがてどんどん確信に近づいていく。
このままでは、長谷部はもう歩み寄ってくれない気がする。確固たる根拠はないが、彼があれほどはっきりと言い放ったならば、きっとそれを翻しはしないだろう。
そうなって欲しくなかったのに、どうして。
(どうしようとか言ってる場合じゃない。どうにも出来ない。理解しあえないんだっていう事実をお互いわかりあった。それだけだ……)
それだけだ、と自分に言い聞かせようとするけれど、割り切れない思いに苛まされる。
ふらりと立ち上がると、束穂は悲しい足取りで離れに向かったのだった。