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【刀剣乱舞】守護者の恋

第16章 長谷部の選択


「束穂」
「はい」
名を呼ばれて返事をしたものの、長谷部はその先の言葉を失ったように束穂を見て、それから、困惑の表情を浮かべるだけ。
「何か、お困りでしょうか」
「……何をどう聞いて良いのかもわからん」
あのことですか。このことですか。
普段だったら候補になりそうなものを挙げていくところだが、束穂はそうはしなかった。それらは長谷部にとっては余計なもので、むしろ彼の思考を阻害するように感じたからだ。
燭台切は言った。他人の言葉でようやく長谷部は自分が感じているものが、そういう言葉なのだと気づくのだろうと。それを思えば、あれこれ言い連ねてあげた方が良いかもしれないが、なんとなくそれは束穂には受け入れられない。
だって、こうやって言葉にしようと悩んでくれるならば、時間がかかっても彼の言葉で聞きたいではないか。
だが、長谷部は存外早く音を上げた。
「……いや、いい。お前は早く寝なければな」
「長谷部さん」
「いい、悪かった。結界を張って寝てくれ」
また諦めてしまうのか。また零れ落ちていった水を見送るように、心にひっかかって言葉に出来ないものを削ぎ落とすように、それらの気持ちを見なかったことにするのだろうか。
束穂は長谷部に言葉をかけようとした。
が、何と言ってよいのかわからず、彼女もまた躊躇する。
(いつもならば、わたしが出すぎた真似をしては、とか)
そんなことを思って、彼の諦めを今まで何度見送ったのだろうか。
それでは、自分も彼に対して同じことをしていたのではないか。
不意にそんな思いが湧き上がってきて、一度踏んだブレーキから足を離そうと束穂は必死の思いで声を出した。
「悪くないです。それに、あの、わたし、待てますから……」
「……待つ?」
何のことだ、と怪訝そうな長谷部。
「何度長谷部さんが、言葉にすることを諦めても、わたし、ずっと待てます。だって、何かをわたしに聞こうと思っていらっしゃるなら、それは聞いて欲しいですし、うまく伝えられなくても答えたいですから」
「……」
眉間に皺を寄せる長谷部。
「長谷部さんとわたしの考え方が違うことは百も承知して、それでもこれだけはわかって欲しいんです……考え方が違うから理解してくれとは言いません。ただ、わたしがどう思っているかっていう、事実だけはわかってください」
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