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【刀剣乱舞】守護者の恋

第16章 長谷部の選択


「他者にとって代替えがあるものでも、他の誰かにとっては唯一のものになり得ることを知りなさい。そして、君達と君達にとっての『それ』は、君達の一方通行ではないことを、そろそろ理解して貰いたい」
「我々にとっての『それ』……とは?」
「君達がわたしを唯一のものと思うように、わたしにとっては君達一人一人が唯一のものだ。君がどこまでも納得しなくても、それはわたしにとっての真実で、この先も曲がりようがないことだ」
審神者がそう言えと、加州がおずおずと
「ほんとに?」
「ん?」
「ほんとにぃ、俺のことも唯一の刀だって思ってくれてンの?」
「加州は阿呆だなあ」
そう言って審神者が笑えば、むきになる加州。
「阿呆ってなんだよ!!」
「最初にここに来たお前にそう思わずして、他の皆をそう思うわけがないだろう。どうしてそんな阿呆な質問をこの期に及んで出来るのか、わたしはびっくりだよ」
肩をすくめて審神者は束穂をちらりと見た。それへ、束穂は苦笑いを返すしか出来なかったのだが。

その場で長谷部は特にそれ以上何も問うこともなく、業務的な話だけをして退出をした。
束穂は審神者とあれこれと話し込んで遅くなり、気がつけば刀達もみな布団を敷いて眠りにつく時刻になってしまう。
疲れを感じつつも、結界を強めるため――疲労が大きすぎて眠ったら最後何かあっても起きられないのではと危惧したのだ――夜の庭を横切り、門近くに行こうとする束穂。
その背に、聞き慣れた声がかけられる。
「束穂。まだいたのか」
庭に降りて歩き出した時、風呂からあがってきた様子の長谷部が縁側の角を曲がってきてちょうど束穂を見つけたようだった。
「長谷部さんこそ、まだお眠りではなかったんですか。お疲れでしょう」
「俺は明日は出陣しないから別に良い。お前は明日も出かけるのだろう」
「その、少しお話が長引いてしまって……昔話などもしていたものですから。結界を強めて、それから寝ます。長谷部さんは、どちらに?」
「刀装を戻すのを忘れていた」
刀装は通常宝珠の状態になっており、戦の前にその力を開放することで珠から兵士の姿へと一時的に展開される。審神者から預かった刀装を持ったまま放って置く刀がほとんどだが、中には長谷部のように、律儀に一日ごとに刀装を置いてある部屋に返すものもいる。
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