第16章 長谷部の選択

「彼女が守っているのは、君達すべてを含むものだ。だから、今は君達に守られているように見えるだろうが、それも、そもそも君達を守るための同行で、ことの本質から外れてはいない」
審神者の言葉に加州は「ああ」と声を漏らし、なんとなくであっても理解をした風だった。だが、長谷部は眉根を寄せ、じっと審神者を見つめるのみ。
「君達は君達にしか出来ないことを成し、彼女は彼女にしか出来ないことを成す。そして、彼女にしか出来ないことのうちのひとつに、今の不安定な君達を護るということが含まれている。そして、君達を護るために同行している彼女を守ることも、君達にしか出来ないことだ」
「しかし、我々を守ろうとしてここにいるあなたを危険に晒すならば、本末転倒ではないですか。我らは折れても、代わりがいます。けれど、主は」
苛立ちは見せぬように、平静を装って長谷部は思いを言葉にする。けれど、そこにいる誰もが、きっと長谷部はこの問答には納得いかないのだろうと悟っていた。勿論、審神者も同じ思いだ。
「そうだね。わたしは君達にとって唯一だろう。審神者の能力を持つものは他にもいるが、この人数の刀がいる場所に安定して顕現させる者も、君達に道中他の刀の魂と接触出来る力を付与出来る者も、他にはいないのが現実だ」
「それならば……我らは、主の力でこれだけの数顕現させていただいておりますし、小狐丸の例の通り、折れたとしても再び顕現することが可能やもしれませぬ。我らは唯一のものでは」
「長谷部」
もう一度、審神者は彼の名を呼ぶ。それは、先程よりもいくらか強めの音で、長谷部の言葉を確実に遮ろうという意志を感じる響きだった。
「そして、束穂のような力を持つものも唯一の者だ。逆に考え給え。そんな力を持つ我々が君達を守ろうとしているということがどういうことなのか、いま一度考えて欲しい。命あるすべてのものは唯一のもの。それは間違いがないことだ」
きっと、そこから長谷部にはわからないのだろうと束穂は思ったが、口は挟まない。
「君が、自分達は代替えがあると思っても、それは君にとってだけの真実。他者にとって代替えがあるものでも、他の誰かにとっては唯一のものになり得ることを知りなさい。そして、君達と君達にとっての『それ』は、君達の一方通行ではないことを、そろそろ理解して貰いたい」
「我々にとっての『それ』……とは？」