第16章 長谷部の選択
それから数日、束穂は刀達と共に出陣をし、なんとか日々無事に過ごしていた。
長谷部率いる部隊とは今日で二度目の同行だが、やはり彼に対する印象は変わらない。
ふと、思うのは。
初日の夜、燭台切が話をしてくれた長谷部像はとてもしっくり来る。彼の言葉が正しい長谷部を表しているならば。
薬研が話してくれた、本能寺でのあの一件。
長谷部の心は、何一つ曇りなく、あそこで「織田信長を討つ」を選んだのだろう。はっきりと、迷いなく、それが主のためになると。部隊長の立場を捨ててでも。
あれ以来刀達の不調はあまり感じられない。少しずつでも歴史改変が緩和されているのではないか。そんなことを話しながら、また少しだけ夕食に早い時間に本丸に戻ったのだが……。
その日、本丸では事件が起こっていた。
「本丸が襲われた……?」
「うん。まあ、束穂の結界を破るほどではなかったけれど、場所がばれては困るから迎撃したよ。戻ってあちらさんの上に報告されるのは困るから完全殲滅をしてもらったんだけれど」
束穂達が出陣している間に、過去に姿を置いている本丸が歴史改変勢力の刀達に襲われたのだと言う。本丸の場所を特定することなどほぼ不可能と言われていたが、やはりそれは束穂の力と常駐があってのことだったと判明する。
「みながいる空間は歪みやすい。その歪みを彼女の力で安定させているのだが、ここ数日はその力を半減してもらっていたから、敵に感知される程の歪みが生じたのだろう」
報告に訪れた長谷部は眉間に深い皺を見せながら
「ならば、やはり束穂は我々との同行を止めた方が……ここ数日、問題も起きていませんし」
「そういうわけにはいかないよ」
「しかし、彼女の本来の役割はこの本丸を守ることでしょう。ならば」
「長谷部」
審神者は静かに長谷部の名を呼んだ。その表情は穏やかで、けれど、どことなく憐憫を感じさせる憂いもほのかに含んでいる。
「本丸とは、何だろう?」
その審神者の言葉には、長谷部ではなく加州が間の抜けた声をあげた。
「え?」
「どう思う?加州」
「どうって、ここ、のことでしょ」
「ここ、とは建物のことなのか。それとも空間のことなのか」
「ンッ」
他に何があるのか、と加州は困惑して妙な声をあげる。
「みんな誤解をしている。束穂が守ろうとしているものが何なのかを」
