第15章 削ぎ落とされていくもの
布団に入って、考えるのは長谷部のこと。
この本丸には色々な刀がいる。
燭台切が言う「水をすくって落ちていくもの」が何なのか、知らないままの者もいれば、わかっていて未練がない者、わざと落とすためにすくう者、落ちていくと気づいていない者、と様々なのだろう。
きっと、長谷部は零れていく水も本当は大切なものだと知りつつ、それをすくう手段が自分にはない、と割り切っているに違いない。
一日長谷部と共にして、わかったことがある。
部隊長を務める刀には向き不向きがあると審神者が以前言っていた。
長谷部は向いている。彼はとても目が行き届き、判断も早く、そして己が常に先に実行をして見せ、戦で先陣を切る。
人をねぎらうことは下手だが、彼が口うるさく言わないということは、評価しているという意味なのだとみながわかっているようだ。
情報を削ぎ落とす速度が彼は早すぎるのだろうと束穂は思う。そう。なんでも早い。すぐに結論を出す。すぐに捨てるし、すぐにすくう。そして、それに間違いが少ない。戦ではその能力が必要で、そういう意味では彼は秀でている。使われる側の刀ではなく、使う側であればどれほど……。
けれど。
(人の心に関することも、同じように)
束穂の顔が見えないから伝わらない、読みづらい。だから考えないようにしていたが、それではいけないのだと彼は考えたようだった。
なんという生真面目さ。なのに、うまくいかない。
(昨日の朝、逃げるように話を終えてしまったけれど、燭台切さんが言う通り……長谷部さんはわたしと向かい合おうとしてくれた)
彼は束穂の言葉を「よくわからないし、知る必要もない」と切り捨てたい所を、堪えてくれている。
(伝わらなくても良い。伝える必要がない。伝えたところで。そんな風に零れていく水を見送っている)
見送っていればまだ良い。見て見ぬふりをして、だからこそ次に己が見なければいけないものを、誰よりも早く求め。
そして、誰よりも早く切り込み、折れてしまったら。
(怖い。あの人が、先へ先へとのめり込んで行く姿は……)
刀なのだから切ってなんぼ。乱の言葉がふわりと浮かんでくる。
それに忠実にあればあるほど、死地へと逝き急ぐ。そんな刀はきっと長谷部だけではないのだろう。
悲しい気持ちは何一つ薄まることなく、体の疲れのおかげだけで束穂はやがて眠りについた。
