第15章 削ぎ落とされていくもの
「だから、相手の心の動きに、本当はそう疎くない方だと思っていたのですが、肝心な……主の根本的な気持ちを理解出来ていないようで、わたしには不思議でならないんです」
「うん。それはね」
何も悩むことがない、とばかりにすらりと燭台切は即座に返答をする。
「あの時長谷部くんが言ったことはおおよそ、他の刀が口にしたことだからね」
彼の言葉に束穂は「ああ」とため息とも返事ともつかぬ声を出した。その様子を見た燭台切は慌てて言葉を付け加える。
「おっと、ただ、勘違いしないで欲しいのは、それは長谷部くんが、なんていうのかな?君たちの言葉での『イエスマン』だということじゃない。それはわかっていると思うけど」
ははは、と笑う燭台切。そう深刻なことでもない、と束穂を緊張させないようにと気遣っていることは明白だ。
「そうだね……長谷部くんは、自分だけの心を言葉にすることが下手くそだ。とても思慮深くて多くのことを考えているのに」
「はい」
「でも、人っていうものは、言葉でものを考えるだろう。ぼんやりした感情も、言葉になると明確になるけれど。これは僕らもこの体になって言葉を発することになってよくわかったんだけどね……」
少しだけ言葉を考えるように、燭台切は間を置いた。
整った顔立ちが、わずかに自嘲を含んだ表情にと緩やかに、けれど隠さずに歪む。
「ただの刀であれば、何を考えようと何を感じようと、それを外側に出す必要もなければぼんやりしたそれを理解しなくたって困らないから」
燭台切の言葉は束穂には衝撃的だった。
そうか。刀である彼らは刀身である時でも色々なものを見て聞いて感じて、人と変わらぬ心の動きを持つのだと思っていた。それを他者に伝えることが出来ないことは束穂も承知だったが、そればかりか、己の心でわからぬことがあっても何も問題にならないのか……。
人ならば思いを口にして伝えなければいけなかったり、もやもやしたものが心にあればそれが何なのか気になって苛立ったりもするけれど。
「よくわからない。が、それで困ることはないから、忘れよう。そんなもんだと思う」
束穂は、先程と違う「ああ……」が口からつい漏れたことに気づき、しまった、と指先で唇を抑える。
その音は、腑に落ちた、合点がいった、という意味合いを持つものだ。