第15章 削ぎ落とされていくもの
「ん?」
シャワー後、髪を乾かす気力もなくぼんやりしていると、またまた誰かが玄関先に来たようだった。
「束穂、起きてるかい?」
その声は、燭台切のものだ。頭にかぶっていたタオルを肩に落とし、濡れた髪をざっくりまとめて出ていく。
なんというタイミングだろうか、と少し驚きつつ障子を開ければ、ふわりと良い匂いが鼻に届く。
「疲れただろう。食べたら寝たら良いと主からの伝言だ」
重箱を差し出されて受け取る束穂。いつも彼女が重箱に食事を入れて本殿との間を行き来していることを彼らはわかっていたのだと気づく。
「わざわざありがとうございます」
「どういたしまして。今日は順調だったようだね」
「はい。みなさんのおかげで無事に」
「怖かっただろう」
「少しだけ。でも、みなさん出来るだけわたしを後方に置いて戦ってくださったので」
「そうか……長谷部くんとは、大丈夫だったかい。煩わしそうな、邪険な扱いは受けなかったかな」
驚くほどストレートなことを言う、と束穂は目を見開き、それからついつい噴出した。
「ふふふ、大丈夫でした。面倒だとかは思っていらっしゃったと思いますけど」
「気にすることはないさ。彼はただ、真面目すぎるんだ。それだけだからね」
束穂は重箱を両手で受け取ったまま、燭台切をまっすぐ見る。
「燭台切さん、あの、少しだけ聞いていただいて良いでしょうか……」
「うん」
「主が体調を崩した日の夜、燭台切さんと長谷部さんと、縁側でお話をしたことを、覚えていらっしゃいますか」
「覚えているとも」
すとんと玄関の上がり框(かまち)に腰を下ろす燭台切。それの後ろに束穂は膝を折り、重箱を横に置いて言葉を続けた。
燭台切は、いつも朗らかで、穏やかで、けれどとても静かに鋭い。出来過ぎた刀だと束穂は思う。きっと彼にも思うところがあり、そして欠点だってあるのだろうが、それがどうにも見当たらない。きっとそこが欠点に限りなく近いのだろう。
だが、こういう時には本当に助かる。
「あの時、長谷部さんは、わたしの過去について、言いたくなければ言わなくて良いとおっしゃってくれました」
「うん」
「勘ぐるみなさんの心の動きも気にしていらして、そのことを伝えてくださいました」
「そうだね」
燭台切は辛抱強く束穂の言葉が終わるのを待ちながら相槌を打つ。
