第15章 削ぎ落とされていくもの
本来、普通の人間を過去に送ることは禁じられている。その許可が上層部から出たことがとんでもないことだと束穂は知っていた。
(出来るだけご迷惑をかけないようにしなくては)
彼女が一人加わったことで、刀達が戦う時の陣形は崩れる。
索敵に置いて優位に立てば、前もって示し合わせていた陣形で仕掛けることが出来るが、そうではない場合は問題だ。
敵から仕掛けられて迎え撃つ場合、束穂を護衛する前田が出来る限り矢面に立たない位置に陣を整えなければいけない。
彼女が結界を張れることはみなはわかっている。だから、みなが戦っている間に彼女には自身にそれを施してもらう。そのことは最低条件だ。けれど、不測の事態があり、たとえば彼女が意識を失えば、彼女自身を捕獲される可能性もある。
「あちらが時代を遡る精度は高そうだ。うまく時代を誘導するポイントに出没しているようだしね。束穂が同行していることを知られたくない。だから、交戦したら殲滅が基本。索敵されて泳がされるようなことは回避して欲しい。万が一あっちに報告がされたりすると面倒だ」
とは審神者の言葉。刀達は「だったら同行は避けたほうが」と思ったけれど「わたしは、君達にきちんと戻ってきて欲しいし、もう帰ってこないかもしれないと思いながら見送ることは許せないんだ」と静かに告げた審神者の表情は固かった。
長谷部と薬研の件は、みなに心配かけないようにと終始穏やかに笑みも絶やさず「大丈夫」と言っていたが、もしかしたら一番精神的に堪えたのは審神者なのかもしれない。
「束穂、歩きは大丈夫かい」
なだらかな登りになっている林の中を歩きつつ、気を使ってくれるのは蜂須賀だ。
今回の部隊編成は難航した。
索敵特化したものを優先すれば、束穂を護衛する前田が前線からいつもより下がって戦力が落ちているところ、更に戦に不安要素が増す。
だからといって索敵よりも火力をどの程度重視をすべきかは難しい。
結果、中間をとらざるを得ず抜刀達で比較的素早い動きを得意とするものを最初の部隊に投入をした。山姥切、蜂須賀。そして脇差から骨喰。比較的静かなメンバーだ。
「はい。もともと山歩きは得意なので、これぐらいでしたら」
「そうか。良かった」
「山育ちなのか?」
と聞いてくるのは骨喰。
「いえ。ただ、二年ほどとても不便な場所に住んでいて」
