第14章 人の心刀の心(長谷部の章)2
(何も……何も起きませんように)
自分がいない本丸が外敵に晒されないように。それから。
(わたしの力のせいで、もう、誰も)
審神者が影響を受けませんように。
不思議なもので「本丸全体の結界」を張る時でも、門を意識するとすんなりうまくいく。無意識に門というものを、何かが出入りするものだと認識しているからだと勝手に束穂は思っているのだが。だから、つい、特別な時は門に近寄って力を施すのだ。
ふう、と一息つくと、背後から声がかかる。誰かがいることはわかっていたが、待っていてくれているとも感じていた。
「朝から熱心なことだね。おはよう」
「おはようございます、青江さん。朝食当番でしたよね?」
「そうだよ。でも、味噌汁はもう少ししてからでも大丈夫だろう?」
「はい」
「……心配かもしれないが、大丈夫だよ。厨房も、本丸全体も」
少しだけ声音が変わった、と束穂は思う。多分青江が言う「本丸全体」は掃除などのことではないのだろう。
「はい。みなさんに頼らせていただきます」
「それがいいよ。霊っぽいなにかが来たら、僕が斬っておくから」
そう言って青江はわざとおどけた仕草を見せた。束穂がそれに笑えば、彼も笑って「じゃ、味噌汁作りをしてこよう」と厨房に向かう。
青江のその言葉は幾分自虐を含んでいたが、束穂を思ってのことに違いなかった。霊を斬りたいわけではないだろうに、優しい方だと束穂は思う。人の気持ちを感じるとることが、彼は比較的得意だ。軽い口調で茶化していても、その言葉にきっちりとした理由があることが多い。
(でも、長谷部さんはそうはいかないんだろうな……)
それから、少しだけ石切丸を思い出しながら、出かける準備をするため離れに戻った。