第14章 人の心刀の心(長谷部の章)2
「あ、長谷部さんが明日ご一緒なのですね。よろしくお願いいたします」
「ああ……俺が、お前を連れて行くに際して、主から、頭巾をとってもらおうと提案をいただいたのだ」
ようやく話が繋がったと束穂は思うが、何故それが「長谷部が自分を連れて行くに際して」なのかはよくわからない。彼女が審神者に聞いた話は、特に長谷部との同行に限定した話ではなかったような気がしたからだ。
「……俺は未熟だから、お前が頭巾をしていると何を考えているのかわからない。だから、何を言われても、あまり深く考えないようにしようとしていたのだが」
「……」
「昨晩、頭巾をとったお前と話をしたら、それではいけなかったのかと思ったし、顔が見えない相手とは……俺には、難しい。主の気持ちを探るだけで日々精一杯だ」
長谷部の説明は相当にぼんやりとしている。彼自身よくわかっていないことを口にしている風に束穂は感じた。そして、そういう彼は、きっと珍しいのだろう。
「だから、他の刀では気付くことも、俺はお前のことは気付けない気がする。そう考えれば主が提案なさったことはもっともなことで……不名誉ではあるが、主に打診され、俺もその方が良いと同意せざるを得なかった」
「そういうことですか」
「受け入れてくれて、感謝する」
頭を下げる長谷部に、どう返して良いかわからず束穂は戸惑う。軽く流すことが出来ず、つい無言の時間を作ってしまった。
すると、頭をあげた長谷部は束穂の顔を見て
「いつも、俺の言葉にそのように困った顔をしていたのならば申し訳なかった」
と言い「では」と背を向けた。慌てて声をかける束穂。
「長谷部さん、違うんです、あの」
「……なんだ」
「わたしも、顔を見せることを慣れていないので、ど、どうして良いか……」
そう言いつつも、慣れぬ状況のせいで束穂は両手で顔の下半分を隠す。
審神者が体調を崩した時、昨晩泣いてしまった後。顔を見せるのは初めてではないのに、表情を読もうと意識されていると思えば、素のままでいられないではないか。
頬が熱い。けれど、顔を覆っては意味がなくなるとも思う。
振り返った長谷部は口端を軽く歪ませ、苦笑いともなんともつかない表情を浮かべた。
「そうか。明日から思いやられるな……」
最後に呟いたそれは、彼の本音なのだろうと束穂は思った。
