
第14章 人の心刀の心(長谷部の章)2

「さてさて、改めてみんなおはよう」
予告どおりなかなか起きられなかった審神者を束穂はなんとか起こし、朝食後にみなが広間に集った。勿論、束穂も同席する。
「昨日の話の続きと経過の報告だ。歴史改変が発生したことにより影響を受けた長谷部と薬研、それから若干鯰尾もその傾向があったのだけど、更に過去に遡ることによって状態は安定した」
誰一人私語もなく静まり返る広間。
「で、こちらがやるべきことは、今日からとんでもないいたちごっこになる」
「どういうこと?」
あっさりと静寂を破るのは次郎太刀。
「本能寺の変が起きる前に行って、明智光秀を守る」
「「「ええっ!?」」」
その場にいた刀の半分は驚きに声をあげ、声を出さない者もぴくりと眉を動かし、誰もが大きな反応を見せる。
「といっても、別に護衛をしろとかそういう話ではない。そんなことは出来るはずもないからね」
そう言って審神者はみなにざっくりと説明をした。
長谷部達の話では、本能寺の変が起きる時刻がそもそもおかしく、明智光秀の計略は織田信長側に知られていたと。
そんなことは、当日に何かをして大きく動く事象ではないと。
「歴史改変を目論むやつらの出没地点は観測できないんだけど、歴史改変の観測ってやつはそれなりに出来なくもなくてね。この一晩、未来っていうかわたし達の時代でデータ解析をお願いしていた」
刀達はみな「何を言ってるかわからない」という顔だ。
「そしたら、今までの観測方法ではひっかからないような方法で、とても細かく、とても僅かな改変を何度も何度も重ねていた痕跡が発見されてね」
「じゃあ、この先ずっと改変され続けるってこと?」
みなを代表するように問う加州。
「いや、既に、今度はそれも観測できるように技術者が対応を始めている。そっちも、いたちごっこだね」
小さく審神者は笑う。彼が笑うことで、刀達は少しだけ緊張を緩和させ、それぞれ顔を見合わせる。
「我々が過去に遡って手を出せることには、とても細かな規定がある。君たちには基本、歴史を改変しようとする、我々と同じく「未来から来た者」を排除してもらっている。逆を言えば、それ以外にわたし達には改変を止める方法はなく後手後手だ。だからといって、歴史改変者達が動き始めた時代に行ってその者たちをすべて殺せば良いかと言えば、それこそ歴史改変の幇助(ほうじょ)以外の何物でもない」
