第13章 人の心刀の心(長谷部)
彼だって言葉にして、伝えようとしないわけではない。
それでも、薬研が言う通り「はっきりしてることしかうまく言えない」のだろう。
ならば、織田信長を切りに行った長谷部の心は本当に明確で、彼にとってはそれが一番己の行動指針になったに違いない。
(でも、心とはそういうものではない)
彼に比べたら自分は生まれたての赤子のようなものだとは知っている。
けれど、自分の思いを相手に伝えられる環境には、彼らより長くいる。
束穂は、その点についてはあまり自分も長谷部のことを強く言えない立場だとわかっていた。自分も言葉が足りない。心にしまうだけしまって口を閉ざしてしまう。
だからこそわかるのだ。
本当に大切なものはうまく言葉に出来なくて、もどかしい。
それでも、その言葉に出来ないことを本当は大切にしなければいけないのだ。言葉に出来ないものが心に残っていて、本当はそれが自分にとって一番大切で、余程頑張らないと人に伝えられない。伝えなくてもいいや、と思っていつも諦めてしまうけれど、伝えられないということとそこから目を逸らすことは同じではない。
長谷部はそれを知らないような気がする。明確なことばかりを大切にしているから、審神者の心も通じないし、みなにもそういう刀だと思われてしまう。
(本当は優しい人だとみなもわかっていらっしゃるけれど、ご本人が一番気づいていらっしゃらないような気がする)
余計なお世話と知りつつそんなことを考え、束穂は深い溜息をついた。
朝が来れば、何かが動く。それが、長谷部にとって薬研にとって、自分達にとって良いことでありますように。