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【刀剣乱舞】守護者の恋

第13章 人の心刀の心(長谷部)


薬研は「余計な話をしすぎたかな」と小さく笑う。
こんなに沢山の言葉を使って、出来る限り正しく束穂に伝えようとしてくれているのに、彼らは長い長い刀という生の中、主にずっとずっと何一つ言葉で伝えることが出来なかったのだ。
束穂はそのことについてふと考えた。
薬研も、もともとこんなにおしゃべりな刀ではない。それでも、胸の内にはこんなに多くのことを秘めているのだ。
それはそうだ。彼らは、束穂の倍どころか、何十倍もの時間を過ごしているのだ。
どれほどのものをその心にしまいこんでいるのか。それは、こうやって言葉を得た今、しまいこんでおけるものなのだろうかと漠然と心配になる。
「……長谷部さんは、薬研さんのように誰かに伝えようとは出来ないように思います」
「そだな。俺っちは、兄弟がいっぱいいるし、ここに来てすぐそいつらの面倒を任されたから、言葉を使って伝えるのは得意な方だと思うよ」
「あ、そうか……」
「長谷部は杓子定規だから、はっきりしてることしかうまく言えないじゃないのかな。加州がたまに怒ってる。もともと寡黙なやつらはいいけど、長谷部は口出す割になあー」
そう言って薬研はははは、と朗らかに笑った。
そうやって笑うことだって、刀身の状態では出来ないことだ。
(ずっと、このままであったら良いのに)
そう誰かが間違いない約束をしてくれれば、もっと長谷部の中にあるいろんな思いも言葉に出来る日が来るだろうに。

束穂は、燭台切と山姥切が怪我をして戻ってきた夜のことを思い出していた。
あの時、長谷部は手入れが終わる刀達用に夜食を作るわたしを気遣って、彼は声をかけにきたのだ。
(長谷部さんのせいで燭台切さん達が怪我をしたわけではないだろうに)
それでも、部隊長である自分のせいだと感じて。
手入れが終わった燭台切達に聞けば、長谷部とは会っていないと言っていた。それは、長谷部からすれば「どうせ手入れで元に戻るなら、わざわざ様子を見るほどのことはない」程度の話だったのだろう。刀同士だからそうなのだろうか?
なんにせよ、あの時長谷部は束穂を気遣い、自分の落ち度だと(そうではないのだが)謝罪していた。
彼だって言葉にして、伝えようとしないわけではない。それは束穂にもわかっているし、他の刀達も、審神者にもわかっている。
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