第13章 人の心刀の心(長谷部)
本丸全体で過去に遡ってから、束穂と加州は審神者にことの概要を聞いた。
それから離れに戻って一度湯あみをしたものの、うまく眠れず気づけば明け方。
体感は狂っていないから、今回はきっちり同じ時刻の過去に移動出来たのだろうと推測をする。
いつもより早く朝食を用意し終えてから、時間差で手入れが終わるだろう鯰尾用の食事も用意をして、割烹着を台所で脱いだ。
(長谷部さんと薬研さんの様子を見に行こう)
過去に遡って一刻もすると、薬研と長谷部の様子はだいぶ落ち着いた。
そのまま審神者の部屋――和室二部屋の奥が寝室、手前がいつもいる部屋なのだが――の手前側に二人を寝かせ、審神者はいつも通り奥で休んだ。
「多分朝はぎりぎりまで寝てるから、みんなのごはんが終わったら起こしに来てくれ」
審神者は相当疲れた顔で束穂に告げると、風呂にも入らず眠ってしまった。
審神者を起こさないようにそっと二人の様子を見よう……と束穂はまだ薄暗い廊下をゆっくり歩く。
「束穂?」
手入れ部屋の前の縁側の人影があり、束穂の方を振り向いた。
「……骨喰さん?どうなさったんですか……鯰尾さんが心配で?」
「いや……何か」
「はい」
「何故か、この本丸のことは、忘れたくないなと急に思って。なんだか、それを鯰尾に伝えたくなったのだけど、眠っているようだ」
普段、言葉少ない骨喰が、珍しくはっきりとした話を告げる。それは嬉しい反面、束穂を不安にさせた。
鯰尾は織田信長の次男である信雄に所持されていた過去がある。そして、骨喰は信長死後に大友家から豊臣秀吉に。
長谷部や薬研のみならず、鯰尾も影響を受けているということを束穂は知らなかったが、おぼろげに「お二方(鯰尾・骨喰)も何かあるのだろう」と、頭巾の下で眉を潜めた。
結局、骨喰がどうしてそんなことを思ったのか束穂にはわからない。わからないが、なんとなく「そういうこともあるのかも」とぼんやりと思う。
廊下で膝をつき、審神者の部屋の障子をそっと開ける。
明かりのついていない室内で誰かが起き上がっていた。
「長谷部さん。起きてしまったのですね」
「……ああ」
廊下側の方が比較的明るく、蒲団の上に座ってこちらを見る長谷部の表情はほとんど見えない。
「……長谷部さん、声が!」
「薬研が起きてしまう。静かに」
