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【刀剣乱舞】守護者の恋

第13章 人の心刀の心(長谷部)


ゆらりと長谷部は立ち上がり、廊下に向かってくる。
「お腹はすいていますか。それとも、朝ですがお風呂にでも」
「どれもいらぬ」
廊下に出て、長谷部は勝手に障子を閉めた。その間、薬研は動かなかったけれど、規則正しい寝息が耳に届いたので、束穂も安堵の息をふ、と吐き出す。
「本当にさっき、声が出るようになった」
「よかった。よかったです、本当に……」
「改変前に戻ったことで、一時的に回復したんだろう?主がそんなことを言っていたのをぼんやり覚えている」
「はい。そうするしか即効性のある方法はなかったようで」
昨日戦って戻ってきてそのまま、上着と靴、靴下だけを脱ぎ、わずかに襟元を緩めただけの状態だ。くつろいでゆっくり寝るような恰好ではない。
「よりによって、織田信長の生き死にを変えるなぞ……」
長谷部の声はかすかに掠れた。それが、乾燥からくるものではなく、感情からくるものだとわかっていながら束穂は静かに声をかける。
「……お水をお持ちしますね」
「いや、いい」
縁側にどかりと長谷部は座る。白んでいく朝の空を見上げるその背を、廊下で正座したまま束穂はみつめる。
彼がいらついていることはなんとなく察したが、それと同時に何か話したいことがあるようだと束穂はその場を離れずおとなしくしていた。
「記憶が曖昧だ。記憶がない刀達はこんな感じなのか」
それはにもわかるはずがないことだ。
応えずにいると、振り返らずに長谷部は問いかけた。
「何故、昨晩お前は泣いていた」
束穂は、頭巾の下で二度瞬きをした。
審神者が上層部と連絡をとって戻ってくるまでの話なのはわかっている。
何故。
どうして、何故と聞かれるのだろうか。
顕現が揺れて、そのまま意識を失ったら刀に戻ってしまうと聞けば、彼らの意識が遠のくたびに近づく別れを恐れ、泣くのはそんなにおかしかっただろうか。
自分は審神者に彼らを任されたのに、期待に応えられなくなりそうだったから……そんな答えを口にすればよいのだろうか。だが、それはあまり束穂の心には沿っていない。
刀との別れを体感したことがあるからこそ、と思うが、刀達は主が変わりゆき、守るべきものが変わってゆくのが普通で、それを人が悲しむことはわからないのだろうか。
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