第12章 本能寺(長谷部の章)2
「そうだね。歴史が大きく改変された場所に近づきすぎたせいなのか、その場にとても近しい者達だからなのか、そのあたりはわからないけれど。君たちが危惧した通り、改変された歴史の未来には、多分この本丸どころか、君達を顕現させたわたしすら生まれていないのかもしれない」
「では、主殿の存在が消える可能性も」
「ゼロではないね。とはいえ、何年もかけて世界は自然に作り変えられていくと言われている。確かに織田信長が生き残って明智光秀が死ねば歴史は変わるが、歴史というものはそれをあるべき姿に戻そうと言う自浄作用があるとも言われていて」
「じじょうさよう?」
意味がわからない、と御手杵が山伏をちらりと見ると山伏も軽く首を傾げる。審神者は小さく笑った。
「川の汚れなどが底へ沈んだり、なんらかの微生物によって分解されたり……分解ってわかるかな。土の上にあった生き物の死骸がいつか綺麗になくなったり、まあ、自然の力で綺麗になるっていう意味だけどね……君たちが見た改変の先で歴史が動き、何年もの時を経て、囲む武将が違っても徳川家康が天下をやがてとったり、江戸の時代が短くなったり、知らない時代が加わったとしても、更に十年、百年、と経過するうちに正しい歴史に戻ったりもする」
「なるほど」
山伏は重々しくうなずき、言葉を続けた。
「ここは、既に織田信長が本能寺の変で死んだ未来かもしれない、と言うわけか……」
「まだ我々の意識までは書き換わらないけどね。ただ、多分長谷部と薬研は、強く影響を受けているから誰よりも早く変えられた歴史に沿ってしまうだろう」
さすがに山伏も御手杵もそろそろ審神者の説明にはついていけなくなり、いくらか心もとなさげにすがるような瞳を向けた。
立ち上がる審神者。
「上へ報告をしてくる。大幅な改変ならば、既にわたしの上司が把握していると思う。十中八九、もっと過去に遡って、明智を守れという無茶振りをされると思うんだけども」
「へっ!?」
と声をあげるのは御手杵だ。
「一応ね、歴史の改変は何度かされていて、それを観測出来て、修正出来て状況を把握出来たからこそ、改変者を止めようっていう話になったわけでね……ひとまず、二人は風呂に入って汗を流して来ると良いよ」
呑気さを感じさせる声音で審神者が言うと、少しだけ二人は安堵の表情を浮かべた。
