第2章 手と声と顔と
二宮side
あれから数日が経った。
この日も雅紀から食事に誘われ、俺は最近食事の頻度高くないか?と思いつつもOKした。
雅紀にはこの前あったことも話したいしね。
雅「…で?大野さんにお礼は言ったの?」
和「いやぁ?気づいた時には遠くにいたし。大体その大野って人がほんとに置いていったかは分かんないじゃん?」
雅「っもー!そんなことできる人そうそういないでしょ!?絶対大野さんだよ!」
やっぱり?と心の中で思っていると、
雅「今度もし会うことがあったらちゃんとお礼言いなね?」
えーっ?という俺に
雅「いいね!?約束だから!」
若干怒り気味の雅紀。
そんなに雅紀がのめりこむほどの絵を描く大野…。
俺の中で少し大野という人物に対する興味が出て来た。
この日は雅紀の家で飲みなおすことなく真っ直ぐ家に向かおうとしたけど。
俺の足は何故かこの前大野に会った場所へと向かっていた。
あの場所に着く。
いつもと何ら変わらない景色。
大野の姿は見当たらない。
そりゃそうか…と小さく呟いて今度こそ家へ帰ろうとした、その時。
「そ、そんな!ちょっとぶつかっただけじゃ…」
微かに聞こえた声。
この声…知ってる。
俺はその声が聞えた方へと走った。
声のした方へ辿り着くと、そこにはあの大野って人と、いかにもタチの悪そうな男がいた。
男は相手が目の見えないということを良いことに、ありもしないことを言って金をゆすり取ろうとしている。
周りにもいくらか人はいたけど、みんな見て見ぬふり。
…世の中は冷たい。
だからヤなんだよ。
和「おい、どこ怪我してんだ」
いきなり話しかけてきた俺に驚いたのか、男は目を泳がせながら
「いや、えっと・・・」
という。
そりゃそうだよな。
どこも怪我してないのに慰謝料払え、なんて。
目の見える人には通用しないもんな?
だんだん俺たちを心配する人達、まぁいわゆる野次馬が4、5人集まってきた時。
男は逃げ出すようにその場からいなくなった。
溜め息をついて内心殴られたりしなくて良かった、なんて思っていると大野って人が困惑した表情で俺の方へと体の向きを変えた。
その時、小さな石ころに躓いて大野の身体が倒れそうになる。
俺はその体を支え、
和「…だいじょーぶ?大野…さん?」
と言った。