第18章 ずっとずっとずっと、そのまま【薄桜鬼】
「今帰った。」
「お帰りなさい、一さん。」
相も変わらず可憐な笑顔で出迎えてくれる時尾。
それだけの事が何故こんなに幸福なのだろうかと、俺の表情も無様に緩ませて仕舞うのだ。
「今日は良いお魚が手に入ったんですよ。
沢山食べて下さいね。」
「そうか。
俺は程々で良いから、時尾も確りと食べろ。」
「私は大丈夫です。
一さんは大事なお仕事をされているんですから
お身体の為にもちゃんと食べて下さい。」
時尾は常にこうやって俺を最優先に考える。
慎ましやかで貞淑で……何処に出しても恥ずかしくない、理想を絵に描いたような妻だ。
唯一つ、難が有ると言えば……
時尾は盲目だ。
俺自身はそれを難だと思った事は無い。
俺に……いや、俺以外の誰にも迷惑や厄介を掛けた事は一度足りとも無いし、逆に此方が驚かされる程一人で何でも熟して仕舞う女だった。
只やはり時尾自身は周りから気遣われるのが心苦しいのか、この家からは殆ど出歩かなかった。
それでも時尾の可憐な容貌と、儚げで庇護欲を掻き立てる魅力によって、近隣の住民達からは其れなりに慕われているようだ。