第16章 七ツ下がりの雨【薄桜鬼】

ああ……雨が降っていたんだ。


男女が睦み合った後の独特な湿気と臭いを逃す為、障子を開けて気が付いた。

雨と言ってもさらさらと漂う様な霧雨で、島原の大通りを歩く人達も傘を差してはいない。

腰窓の棧に脚を組んで座り、二階から下を見下ろす。

其処は相も変わらず、大通りに面した紅い檻の中を覗き込む男達で溢れていた。

下卑た笑みを浮かべて、女をじろじろと吟味する男達のじっとりとした視線が本当に鬱陶しい。

私は煙管に火を入れて、ゆっくりと紫煙を燻らしながら独り言ちる。

「私もまた……檻の中に戻らなくちゃね。」


それにしても…さっきの客には辟易した。

線香が燃え尽きても私の身体を中々離さない客に好い加減頭に来て、結局下帯一枚のまま部屋から蹴り出してやった。

もっと私を抱きたいのなら、もう一本線香を買う位の甲斐性を見せて欲しいものだ。


さあ、また次の客を捕まえなくちゃ。

あの檻の中で張り付いた様な作り笑顔を振り蒔いて、男に私を選んで貰わなくちゃ。

そんな事を考えながら手先で煙管を弄んでいると、つるりと滑って私の手を離れて仕舞う。

「あ……」

当然の如く煙管は軒の瓦をかつんと一つ叩いてから、そのまま大通りへと落ちて行った。