第15章 爛熟の刻【薄桜鬼】
「ここが会津だぜ………原田。」
原田が最期まで共に戦った愛槍を肩に担ぎ、俺は飯盛山の中腹から鶴ヶ城を見下ろす。
新政府軍の攻勢に圧された旧幕府軍は既に会津を離れ、未だ籠城を続ける会津藩士が残るだけの鶴ヶ城は静かなもんだ。
そして当然俺の傍らにはが居る。
涙を堪えているのか……小さく震えるの肩を俺はぐっと抱き寄せた。
「何しに来た、不知火。」
背後から掛けかれた低い声に、俺は振り向く事無く答える。
「只の高みの見物だよ。
俺は口も手も出す気はねェ。」
「ふん……呑気で良いな。
まあ、俺も似た様な物だが。」
「処で新選組はどうしたか知ってるか、風間?」
ここで俺は漸く振り向き、相変わらず端正な風間の顔を見据えた。
「新選組は旧幕府軍と共に函館へ向かった。
俺もこれから向かう。」
「函館……蝦夷か。」
「お前も俺と来るか、不知火?
昔、俺に啖呵を切った通り
今でもお前と共に在るその女に免じて
俺の手配した船に乗せてやるぞ。」
風間の柔らかく細められた目がを見つめる。
そんな風間に向かっても小さく頭を下げた。
「なあ、函館まで行ってもいいか?
俺はこの槍に、新選組の最期までをきっちり見せてやりてェ。」
「槍に……じゃなくて、左之さんに…でしょ?」
はそう言ってふふと可愛らしく笑い、俺の胸に擦り寄る。
「勿論、一緒に行きましょう……函館へ。
私は不知火さんが行くって言うなら
何処までも御供しますから。」
「………。」
身を寄せ合う俺とに対して風間は一つ鼻を鳴らすと
「ふん……相も変わらず仲睦まじくて結構な事だ。
では早々に向かうぞ。」
あっさり踵を返して歩き出した。
その後をと二人で追いながら、俺は槍を握り締めて強く想う。