第15章 爛熟の刻【薄桜鬼】
それは二尊院の御守り。
は江戸の生まれだから当然知らねえだろうな。
俺は伊予松山藩出身だ。
だから話には聞いたことがあった。
「左之さん……何か知ってるの?」
俺の様子を見咎めてが少し不安そうに問うて来る。
「、これは二尊院っていう安産祈願で有名な寺の御守りだ。」
「そうなの?」
は嬉しそうに目をぱちぱちと瞬かせた。
「ああ……
二尊院は長州に在る。」
途端に耀いていたの瞳がじわじわと滲み出し
「じゃあ……これ…」
御守りを持つ俺の手を両手でそっと包んだ。
そしてその手に唇を寄せ、涙声で囁く。
「ありがとう………不知火さん。」
御守りを大切そうに握ったまま、俺の腕の中でくうくうと熟睡するを見つめながら俺は考えていた。
生まれて来る子が男ならば『匡』と名付けたい……と。
きっと不知火は「気持ち悪いから止めろ」と照れて笑うだろう。
まあ、不知火の了承を取るつもりは無えけどな。
でも当然には認めてもらわなきゃいけねえ。
明日にでもと話してみるか。
恐らくはにこにこと微笑んで頷いてくれるだろう。
そんな事を考えながら俺も一つ鼻で笑い、の身体を少し抱き寄せてゆっくりと瞼を閉じた。
原田左之助エンド 了