第15章 爛熟の刻【薄桜鬼】
「……ったく。
何処の馬の骨が分からねえ野郎にを渡す気は更々無ェが
それが原田ってんなら話は別だ。
それにが原田が好いって言ってる以上、
もう俺にはどーしよーもねェワケだしな。」
頭の後ろで両手を組んで、拗ねた物言いをした不知火はそのまま障子戸に歩み寄り、一度だけ振り返る。
そして……
「……。」
の名を呼ぶ声色も、に向けられる眼差しも、やはり慈愛に満ちていた。
「本当に悪かったな。
でも手前ェに惚れてたってのは絶対に嘘じゃねェ。」
「ううん……私の方こそ…ごめんなさい。」
俺の腕の中で顔だけを不知火に向けては詫びる。
が詫びる必要なんか有る筈もねえのに……だが恐らく不知火の想いに応えられ無い事を詫びているんだと俺は思った。
「ああ、止せ止せ!
余計惨めになっちまうぜ!」
不知火は右手をひらひらと振り口角を上げると
「原田ァ……の事、任せたぜ。
の実家の奴等が御涅る様な事があれば俺も呼んでくれや。」
相変わらずの軽い調子ではあったが、俺に取っては何よりも頼りに成る言葉を吐き出してからあっさりと部屋を出て行った。