第14章 God bless you【ドリフターズ】
「じゃあ、お豊(トヨ)…行こうか?」
「おう!」
与一さんに促され彼は踵を返すと、またざくざくと今度は飛龍に向かって歩き出す。
その後を追いながら振り返った与一さんは
「……ありがとう。」
何故か私に御礼を言ってくれた。
その御礼の意味が全く理解出来ず、去って行く二人の背中を見つめていると、私の傍らに残ったもう一人の男性が声を掛けて来る。
「お嬢ちゃん、すまなんだにゃー。」
必然的にこの人が織田信長公なのだろうけど、その優しい声色からは歴戦の戦国武将である雰囲気はまるで感じられない。
「いえ……私は何も……」
恐縮頻りの私を見て信長公は穏やかに目を細めた。
「我らの総大将は今、ちーとばかり情緒が不安定での。
でも随分と久方振りにお豊(トヨ)が笑うのを見たわ。
お嬢ちゃんのお陰だて。
この織田信長、心から礼を言うぞ-。」
「やっぱり!
貴方が織田信長公なんですね?」
戦争の所為で碌な教育も受けていない私ですらが知っている歴史的偉人を目の当たりにして心が弾む。
そんな私の様子に信長公の目も輝き出した。
「お?おお!?
お嬢ちゃんも俺の事を知っておるのか?」
「勿論です!」
「そーかー。
やっぱ俺様は有名人なんだにゃあ。
どう?
俺って、いけめん?どえす?」
…………いけめん?
…………どえす?
何を言っているのか理解不能で、私は「ごめんなさい」と小首を傾げる。
「ああ、お嬢ちゃんも分からんのだな。
以前、随分と先の時代から来た娘にそう言われた事があったのだが
実の所、俺も全く意味不明なのだ。
『いけめん』とか『どえす』とか
何時か理解出来る日が来るのだろーか……はああ。」
疲れた様に溜息を吐く信長公が何だか可笑しくて私がくすくすと笑い出して仕舞うと
「うむ……笑うお嬢ちゃんは一段と可愛いのう。」
信長公もそう言って私と一緒に笑ってくれた。