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孤独を君の所為にする【歴史物短編集】

第14章 God bless you【ドリフターズ】


息を切らせて丘を登り切ると目前に海が広がり、そして彼の言った通り岩礁に乗り上げた戦艦が見える。

きっとあれが『飛龍』だ。

私は休む事無く『飛龍』に向かって一直線に歩き出した。


近付けば近付く程、その巨大さに息を飲む。

人の気配はまるで感じられず、『飛龍』に打ち付ける波の音だけが響き渡っていた。

此処まで来たもののどうすれば良いのだろうと彷徨いている私の頭上から声が聞こえた。

「何方かな?」

驚いて上を見上げると、『飛龍』の甲板に佇み、私を見下ろす人影。

それは恰幅の良い初老の男性で、私でも見慣れた軍服を纏っている。

その袖章に気が付けば、この人が誰であるかは一目瞭然だ。

「山口多聞少将ですね?」

私の問いに彼は少し驚いた表情を見せ

「私を御存知か?
 ああ……もしや貴女は菅野大尉の奥方様かな?」

その後直ぐに、にっこりと微笑んだ。


「菅野大尉の奥方様ならば大切な御客人だ。
 丁重に持て成さねばな。」

そう言って態々迎えに出て来てくれた山口少将に導かれて私は船室に通された。

「とある筋から入手した最高級の玉露が有るんだよ。
 どうやらこんな老耄軍人の知恵でも欲しがる輩が多くてね。
 食う物には困らん生活をさせて頂いておる。」

優しい笑みを湛えながら綺麗な所作でお茶を淹れるこの紳士が、本当に『人殺し多聞丸』と呼ばれるあの山口多聞少将なのだろうか?

私ですらが知っている大物軍人に持て成されている事が不思議で堪らない。
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