第11章 狂った三日月夜【薄桜鬼】
ちゃんに刀先を突き付ける僕を見上げた左之さんの顔が凍り付いていた。
その表情に僕はぞわりと『欲情』する。
「総司っ……お前………」
「流石の左之さんでもその最中は気が散るんだね。
僕が入って来た事に全く気付かないなんてさ。
まあ、気配を消すなんて僕にしてみれば簡単なんだけど。」
下衆な笑みを浮かべて話す僕の足元ではちゃんがおろおろと身を捩っている。
「え……あの………沖田…さん?」
僕の姿が見えていないちゃんには、今の状況が全く理解出来ていないだろうな。
「ごめんね、ちゃん。
左之さんとの愉しい逢瀬を邪魔しちゃって。
………僕も仲間に入れて欲しいんだ。」
「えっ……」
「ああ、駄目駄目。
動いちゃ駄目だよ、ちゃん。
じっとしていてくれないと…………
左之さんを斬っちゃうよ。」
固唾を飲んだちゃんは一瞬で凍ってしまった様に身を縮ませた。
ちゃんでは無く左之さんを斬ると言った事は実に効果覿面だった。
ちゃんなら自分よりも左之さんが傷付けられる方を依り恐れるだろうからね。
「じゃあ……左之さんはちゃんから離れて。」
そう言っても左之さんは無言で僕を睨み上げたまま動かない。
だから僕も無言で刀先を一層ちゃんの喉元に近付けた。
左之さんは漸く僕がふざけているんじゃない事を分かってくれたみたいだ。
ちゃんから離れて、ずるずると腰を下ろしたまま後ずさって行く。
「もっと……。
もう少し下がって。」
僕の言うままに動いた左之さんの背中が床柱にぶつかった。
僕は慌てて脱ぎ散らかされた二人の衣類の中から晒を拾うと、左之さんの両手を床柱を挟んで後ろ手に縛り上げる。
「左之さん……痛くない?」
「総司……止めるなら今の内だぞ。」
怒りを孕んだ左之さんの声が低く響く。
だけど僕にそんな脅しは全く効かないよ。
こんな事……中途半端な想いで出来る訳が無い。
その覚悟をちゃんと見せてあげるから……
左之さんも覚悟を決めてよ。