第1章 堕ちる【薄桜鬼】
「あ………何処だ……此処?」
目を覚ました俺は薄暗い周囲を見渡しながら、辺りに充満する湿っぽい饐えた臭いに顔を顰めた。
そして起き上がろうとして漸く身体の自由が効かない事に気付く。
「え…………?」
恐る恐る自分の身体を確認してみると、何故か俺は下帯一枚の姿で両腕を背後で縛り上げられていた。
道理で寒い筈だ。
いや…問題はそこじゃ無い。
「何だ……これ?」
ぼんやりとした頭で昨夜の事を思い出してみる。
何時も通り晩飯を食いながら酒を飲んで……
ああ、そうだ。
それで大して飲んでもいないのに珍しく酔っ払っちまったんだ。
眠くて仕方が無くて……直ぐに自分の部屋に戻って床に入った。
それから……
それから………どうしてこんな事になってるんだ?
必死で考えてみるけれど、頭の中に靄が掛かったみたいに考えが纏まらねえ。
そうこうしている内に目が慣れて来た。
燭台の上の蝋燭がじじっ…と微かな音を発てて燃えている。
此処は……屯所の敷地にある土蔵だ。
捕縛した不逞浪士を拷問したり、脱走した隊士の詮議なんかに使っている場所だ。
この饐えた臭いの理由に気が付いて、俺は一層顔を顰める。
いや、だけど……今居る場所が分かっても、俺が此処に居る理由が分からねえ。
何だって俺はこんな所に、縛られて転がされているんだ?