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孤独を君の所為にする【歴史物短編集】

第8章 横恋慕【イケメン幕末】


夕餉の時刻になっても近藤さんは現れない。

どうしようかと迷っている私に、土方さんが声を掛けて来た。

「あー……近藤さんは忙しいみたいだな。
 部屋まで持って行ってくれるか?」

「はい。分かりました。」

何でも無い事の様に返事をしながらも、私の心はどうしても浮き足立ってしまう。

近藤さんはお仕事をしてるんだから…自分にそう言い聞かせつつ、私はいそいそと近藤さんの部屋へ向かった。


「近藤さん、お食事をお持ちしました。」

部屋の外から伺うと

「ああ…入ってくれ。」

近藤さんの穏やかな声が響く。

「いや、もうそんな時刻か。
 本当にには何から何まで世話になって申し訳無い。」

近藤さんは文机から離れて、私に向かって軽く頭を下げた。

「そんな……。
 私が好きでやらせて頂いているのですから
 気にしないで下さい。」

そう言いながら持って来た膳をそっと差し出すと

「いやぁ、これは旨そうだ。」

と、近藤さんは嬉しそうに笑ってくれる。

貴方のそんな笑顔を見られる事が、私に取っては何よりのご褒美なんだけどな。

でもこんな事、言える訳無いよね。

そして近藤さんは行儀良く手を合わせてから食べ始めた。

「うん、旨い。
 やはり隊士達が作る飯とは比べ物にならんな。
 が作る飯が一番旨い。」

「そんな気を遣って下さらなくても良いんですよ。」

御世辞だとしても嬉しいな。

勝手に綻んでしまう顔を隠しながら、私はお茶を入れる準備をする。

「いやいや、誓って世辞などでは無いぞ。
 俺はの作る飯が一番好きだからな。」

『一番好き』

近藤さんの口から出たその言葉に、どくんと鼓動が跳ねた。

違うよ、料理の事なんだから…と必死で自分を落ち着かせてみるけれど、鼓動は高鳴り続けてしまう。
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