第1章 第壱ノ獄.怨みの中で
鬼灯は不思議な魅力を持つリコの笑顔に見入っていた。
ふと、そんな鬼灯に記録課の主任である葉鶏頭が声をかけた。
「鬼灯様、その子の名前なんだが、こういう漢字はどうでしょう?」
とても綺麗な達筆で、半紙に麗紅と書かれていた。
「ふむ…いいですね。綺麗な紅い瞳のリコさんにぴったりです」
「…ありがとうございます。葉鶏頭様」
「!様づけなんてしなくていい。せめて、さんづけにしてくれ」
「…わかりました、葉鶏頭さん」
「それにしても、もう私の名前を覚えたのか。あまり覚えてもらえる顔ではないんだが」
そういえばそうだと鬼灯も麗紅を見る。
「麗紅さん、貴女もしかして…先ほど会ってきた獄卒全て覚えているのですか?」
「はい。人の顔と名前は1度で覚えろと、ご主人様の命令でしたから」
「…なるほど。貴女の記憶力は素晴らしい。ですが、これからは生前の主人の言いつけを忘れなさい。貴女はもう、"1番"ではないのです」
「!!……はい…」
麗紅は素直に頷くが、果たしてそれが出来るだろうかと内心不安でいた。
無意識に俯いてしまっていた麗紅の頭に、鬼灯は手をぽんぽんと置く。
「!!…鬼灯様…?」
「…すぐにとは言いません。少しずつで結構です」
「…はい。お気遣い、ありがとうございます」
麗紅は内心、鬼灯と自分はどこか似ている気がすると感じていた。
それがなんだか嬉しくて、自然と微笑みを浮かべていたのだった。