第1章 第壱ノ獄.怨みの中で
しばらくして、麗紅は鬼灯の元へ戻ってくる。
「お待たせしました」
「いえ、気に入った物はありましたか?」
「はい、どれも綺麗で迷いましたけど…」
困ったように微笑む麗紅もまた美しいと、鬼灯は思う。昨日からずっと、今まで出会ってきた女性には思わない様なことを思い始めた鬼灯は内心で首を傾げていた。
「それはよかったです。おや、そろそろ夕食の時間ですかね。どこかで食べましょうか」
「はい」
「何か食べたいものは…と言っても、まだわかりませんよね。現世の食べ物とさほど変わりませんが、大抵は和食です。洋食屋もありますが」
「…じゃあ…鬼灯様の好物をいただきたいです」
「私のですか?」
「はい。もっと鬼灯様のことが知りたいのです」
「…そんなこと、初めて言われました。いいですよ、おすすめの定食屋があるので、そこへ行きましょう」
「はい…!」
嬉しそうに笑みを浮かべる麗紅はすっかり鬼灯に懐いたようで、心を開いていた。鬼灯もまんざらではなさそうで、普段よりも少し優しくなっていた。