第1章 第壱ノ獄.怨みの中で
「どうも、白豚さん」
「この鬼!何時だと思ってんだ!イタ電なら切るぞ!」
「うるさいですね。ちょっと急ぎで診てほしい方がいるんですよ。酷い切り傷がありまして…」
「!わかった。今すぐ行く。出張料金割増ね」
「仕方ありませんね。さっさと来てくださいよ」
そう言って電話を切った鬼灯。麗紅は不思議そうに首を傾げている。
「あの、鬼灯様…白豚さん、て…」
「あぁ、天国の漢方医です。本名は自分から名乗るでしょう」
「はい…」
少しして、真っ白な白衣を着て頭に三角巾をつけた男が現れた。
「来てやったぞ鬼神!」
「遅い!!」
ビュッ!と鬼灯は金棒をフルスイングしたが、白澤はスレスレでそれを避けた。
「あっぶねぇな!狭い部屋でそんなもん振り回すな!」
「白豚が遅いのが悪い。いいからさっさと彼女を診てください」
「彼女?おや、君可愛いね!名前はなんていうの?」
「…麗紅です…」
「麗紅ちゃんかぁ、可愛い名前だね!僕は神獣の白澤。よろしくね!」
「はい、よろしくお願い致します」
「じゃあ早速診るね。怪我したのはどこ?」
「背中です」
麗紅は後ろを向いて着流しをはだけさせた。傷を見た白澤は、思わず顔をしかめた。
「酷いねこれ…鬼とはいえ、すぐには治らないけど、よく効く薬を塗ってあげるね」
「はい、ありがとうございます」
「麗紅ちゃんは肌が綺麗だから、大事にするんだよ」
ニコニコと話す白澤に、生まれて初めて自分を大切にしろと言われた麗紅は微笑んだ。